2017 Fiscal Year Research-status Report
液晶性有機半導体の二分子膜構築と膜内相分離を利用した高機能化
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17K14370
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荒井 俊人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (40750980)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ソフトマター / 2分子膜 / 自己組織化 / プリンテッドエレクトロニクス / 有機半導体 / 液晶 / 両親媒性分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではパイ電子骨格をアルキル鎖で片側置換した液晶性有機半導体を用いて、単層の2分子膜構築とその高機能化について研究を進めている。特に本年度は2分子膜構造を結晶の基本構造とする高性能有機半導体材料の選定を行い、選定した材料を用いて単層の2分子膜構築を行った。さらに、その膜内の秩序を明らかにした。 まず、2分子膜構造を結晶の基本構造とする有機半導体材料について、2分子膜積層数に応じたキャリア輸送特性を調べた。その結果、厚みの増大に伴いデバイス移動度が低下し、出力特性に非線形性が生じることを見出した。この原因は、薄膜単結晶を作製することで分子に導入したアルキル鎖が層をなし、その絶縁特性により、層間のキャリア注入が阻害されていることにあると考え、その層間のキャリア輸送がトンネル伝導的であることを実験的に突き止めた。 そこで、アルキル鎖層の影響を排除するため、再現よく単層2分子膜を構築できる手法の開発を進めた。具体的にはパイ電子骨格に置換したアルキル鎖の長さのみが異なる2分子を混ぜて製膜することで、面内の結晶性を損なうことなく、層間の結晶成長のみを抑制し、単層の2分子膜を得るという新たな方法を考案した。この手法を用いることで、出力特性に非線形性の無い良好なキャリア注入特性が得られることを確認し、単層2分子膜構築がデバイス製造に有効であることを示した。さらに、この単層2分子膜構築手法の適応性を検討するため、2分子膜構造を単位とする、その他の有機半導体材料を用いて同様の製膜法を検討した結果、単層2分子膜が得られることがわかり、本手法の適応性が確認できた。また、この新たに使用した材料の光学特性を利用することで、得られた薄膜の面内構造を調べることに成功した。現在は異なるパイ電子骨格にアルキル置換した材料の単層化を進め、その高性能化を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
プリンテッドエレクトロニクス技術において、有機半導体材料の結晶性やキャリア輸送特性の向上は分子材料の進化により大幅に進展してきたものの、薄膜構築の際に膜厚を分子レベルで制御する手法については検討されず、大きな課題となっていた。これに対し、本研究ではパイ電子骨格をアルキル鎖で片側置換した材料は、2分子膜構造を基本とする結晶構造をとり、薄膜デバイス構築に有利な高い薄膜形成能および結晶性を示すという点に着目し、その分子レベルの膜厚制御を試みた。このような層状結晶性材料が持つアルキル鎖の長さが異なる分子をわずかに混ぜるだけで、積層を分子レベルで制御でき、厚みおよそ5ナノメートルの分子レベルの厚みを持つ結晶性薄膜が、100平方センチメートル以上にわたる大面積で構築可能となることを見出した。更に得られた半導体薄膜を用いて作製した薄膜トランジスタは、アモルファスシリコンの性能を大きく超える移動度を示した。また、この手法は他の有機半導体材料へも適応可能であることを確認し、薄膜層内の分子配列の決定要因も明らかにした。以上から、研究は極めて順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、本研究課題はこれまで極めて順調に遂行されている。この中で、半導体骨格を非対称にアルキル置換した高性能有機半導体では、その層状結晶性を増強するために用いられてきたアルキル鎖の導入がキャリア注入を阻害する効果を持つことを見出し、その単層化を行ってきた。今後は、さらにキャリア注入の高効率化を目指し、膜内にキャリア注入に適した相を相分離により自己組織的に導入したいと考えている。このような相分離構造の導入は、キャリア注入効率の向上だけではなく、センサ機能など様々な機能性の付与に大きく関連していることから、導入するゲスト分子の選択についても入念に行う。更に、有機半導体材料自体についても、有機半導体と金属の電気的な接触を改善するために、化学者との連携により有機半導体のHOMO準位が金属の仕事関数に近い材料の開発にも携わる。以上を総合することで、有機半導体単層2分子膜構築法のプリンテッドエレクトロニクス技術への応用可能性を示すと共に、ソフトマター物理と分子エレクトロニクスの懸け橋となる成果をあげていきたいと考えている。
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Research Products
(13 results)