2017 Fiscal Year Research-status Report
Development of a tracking system for tropical cyclogenesis based on 3D structure of convective systems
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17K14398
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
吉田 龍二 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 特別研究員 (30625512)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 熱帯気象 / 台風 / 発生環境場 / 渦追跡手法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は研究の主題である渦構造の追跡手法開発と解析実行のために,実行環境の整備,計算プログラムの開発,および進捗状況の成果公表の3点を実施した.本研究の解析対象データである高解像度全球シミュレーション結果の取得とその保存場所の確保のために大型ストレージを計画通り取得した.また,大規模解析実行のために必要な高性能ワークステーションを取得し,以上で実行環境の整備は整った. 同時に一部高解像度全球シミュレーション結果を既存の旧式計算機にダウンロードし,短期間ではあるが下層渦と中層渦の可視化を行い,渦追跡手法の計算プログラム作りを開始した.大容量データを処理する研究期間の後半で困らないように,並列ファイルIOの機能や,プログラムの並列化も含めて開発を行っている. また,平成31年度に実施予定であった渦構造維持の可否を分ける環境条件を特定するための解析手法の開発も昨年度に一部実施した.申請時には具体的な方策は定まっていない部分があったが,昨年度はYoshida and Ishikawa (2013)で提案した北西太平洋上の下層流れ場を5パターンに分類する手法を格子点データに拡張することで北西太平洋上の環境場を台風の発生に関係なく,流れ場として分類することを考えている.これを基軸に他の台風発生環境場要素を比較することで違いをクリアに見せる計画である.この手法の開発進捗に関しては,平成29年度台風研究会(京大宇治),および台風セミナー2017(名古屋大学)にて口頭発表を行い,成果を公表した.より良い解析手法にするために気象庁本庁を訪れ台風予報の専門家との議論も行った.Yoshida and Ishikawa (2013)の拡張開発の前段階で行った成果は,米国気象学会のMonthly Weather Review誌で発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題申請時の平成29年度の課題である渦構造追跡手法の確立に関しては,現在なお進捗中である.現在2つの視点から開発を進行しており,一方は下層渦と中層渦を追跡するプログラム作成で,比較的低解像度の28km格子間隔データを用いて渦追跡手法を確立するために開発を急いでいる.他方は高解像度データを効率良く処理するための実装である.並列ファイルI/Oライブラリを用いた高速ファイル読み書き機能の勉強と実装練習を行った.渦構造追跡手法開発を昨年度中に完了出来なかった理由の1つは,ストレージと計算機の準備に時間を要したことである.現在は環境準備が整ったため今後は順調に進められる見通しである. 昨年度,環境整備に時間を要する見込みとなった時点で,平成31年度に実施予定であった環境場解析の準備を昨年度に前倒しした.高解像度シミュレーション結果の解析のまえに,現実大気データを用いて特徴を理解しておくことも研究を円滑に進めるために意味がある.再解析データを用いて台風発生環境場の特徴を表すと考えられる渦度や鉛直シアなどの様々なパラメータの計算を実施した.このうち,独自に提案したパラメータとしてYoshida and Ishikawa (2013)で発表した「流れパターン寄与量推定スコア」がある.これは下層流れ場を5つのパターンに分類する客観的解析手法である.本研究では入力データの全格子点,全時刻で解析を行うことで台風発生に寄らず,格子点データとして寄与量推定スコアを計算できるように拡張した.昨年度は解析プログラムの作成と1979年から2016年までの38年間分の解析を終え,初期解析結果を得ることが出来た.初期解析結果については2018年4月に開催された米国気象学会の学会でも発表した.以上のように当所計画と実施順序を変更した点はあるが,全体としては十分な進捗があったため上述の進捗状況として報告する.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の主な作業は,進行中の渦追跡手法開発を完了させることである.Kodama et al. (2015)に倣って台風の定義を定め,再解析データや高解像度全球シミュレーション結果を用いてTCの種となる渦の解析を進める.最終目標はこの高解像度データ結果を用いた長期解析である.渦追跡手法の特色は渦の直立構造に着目する点であり,その指標として中層渦と下層渦の距離,および直立構造を維持した時間を評価することでYoshida et al. (2017)が示唆する台風発生事例と非発生事例の差があるかどうかを調べたい.このとき,昨年度準備を進めた流れパターンの寄与量推定スコアや鉛直シアなどの環境場パラメータの違いも同時に参照することで,運動学的,熱力学的視点の両方から発生・非発生の違いを明らかにしたい.これらの解析を全て実行出来るようにプログラム作成を進め,解析を実施することが今年度の目標である. 現在実施にあたって懸念される事項の1つは,全球14km格子間隔や7km格子間隔という高解像度全球シミュレーション結果の大容量データ処理速度である.しかし,これについては昨年度から問題意識を持ち,並列ファイルI/O機能の実装や解析プログラムの並列化を進めてきたため,このまま実装を進めれば最低限の性能は確保されると考えている.その他の懸念として利用データの解像度の違いが挙げられる.異なる解像度のデータを用いた解析結果をどのように比較するのかという点についても考察しておく必要がある.渦追跡については,現在は開発のために比較的軽いデータ(28km 格子間隔)を使用しているが,これを高解像度データに適用した際には検出基準値となる渦度の値は変更する必要があると考えている.この影響を評価する方法として,先行研究の別の渦検出方法も利用すると考えている.
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Causes of Carryover |
学会発表のためである.本研究の成果を米国気象学会の33rd Hurricane and Tropical Meteorology Conferenceにて発表するため,平成29年度中に参加・発表申請をしたが,この学会の開催日が2018年4月16日から20日であったため,決済は次年度に行われることになり,上述の差が生じた.
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Research Products
(3 results)