2018 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類の咀嚼運動様式の進化をさぐる:歯の微細摂食痕の三次元解析
Project/Area Number |
17K14411
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 泰 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (40719473)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マイクロウェア / 三畳紀 / 板歯類 / 系統比較法 / 歩行様式 / 体重進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では歯に残る摂食時の微細な痕(マイクロウェア)の三次元的な解析による初期哺乳類の食性進化の解明を目指している。マイクロウェアの三次元解析は手法自体が開発途上であり、他研究室で得られたデータと比較可能でかつ食性を反映している表面性状データを得るためのプロトコルの確立が重要である。本年度も食性が既知の現生哺乳類であるイノシシやシカからのデータ収集に尽力し、プロトコルの確立を目指した。 同時に初期哺乳類と同じ三畳紀に生息した海生爬虫類の板歯類の食性解明を目指した取り組みも始めた。ヨーロッパの博物館で採取した板歯類のプラコダスやキアモダスのマイクロウェアからのデータ採取を行い、同時に比較対象となる底生生物を捕食する現生サメのマイクロウェアを沖縄美ら島財団が保有する標本から採取し、データの採取を行った。 また、三次元マイクロウェア解析の利点として、人の目でマイクロウェアをカウントする定量的な二次元マイクロウェア解析と異なり、定量的な数値として表面性状データが得られる点があげられる。数値として得られたデータは種間の関係を表す系統樹を用いた系統比較法を用いて、祖先の状態の推定や、進化過程の解明、進化モデルの推定等に利用できる。このような将来的なマイクロウェアから得られた系統比較法の研究を行う事を想定し、系統比較法の習得とそれを用いた研究も推進し、大きな成果が得られた。英国レディング大学と共同で進めた、陸生哺乳類における歩行様式と体重進化の関係を調べる研究では、歩行様式が変化する時に体重も大きく変化するという結果を得る事ができた。また、系統関係から生物地理区の関係性をネットワークとして表す新手法の開発にも成功し、今後様々な分類群への適用を予定している。これらの研究を行い、得られた系統比較法の知識や技術をマイクロウェア解析で得られたデータと組み合わせて今後の解析を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイクロウェアの研究は未だに現生哺乳類を用いたプロトコルの確立を行っている段階である。初期哺乳類のマイクロウェアの採集も未だに行えてはいない。板歯類のマイクロウェア研究では海生哺乳類のマイクロウェアを採取し比較を行う予定なので、陸生哺乳類と海生哺乳類のマイクロウェアの違いを明らかにできればと考えている。哺乳類の食性の初期進化を探るという研究目的からすると、研究は大幅に遅れているという事ができる。 一方で将来的にマイクロウェア研究と組み合わせて、より大きな成果を生む事を目的に進めている系統比較の研究では、インパクトのある成果を生み出すことができた。マイクロウェアを用いて個々の絶滅種の食性を調べるだけでなく食性の大進化について調べるためには、系統比較法が不可欠である。昨年度を将来的にマイクロウェアを用いて大きな研究成果を出すための準備期間ととらえれば、マイクロウェア研究そのものの遅れを補ってあまりある進捗があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは板歯類の食性推定を進めたいと考えている。そのために比較対象となる、海生哺乳類のマイクロウェアの採取を行う。具体的にはジュゴンやマナティ等の海藻を食べる海牛目を調べる。また歯の形態が板歯類と大きく異なるため、どこまで比較が可能かは疑問もあるが、ハクジラの仲間のマイクロウェアの採取も行いたい。さらに哺乳類の初期の食性の進化を調べるために、プロバイノグナトゥス類の歯化石からマイクロウェアの採取を行いたいと考えている。 系統比較法の手法の習得を通じて、進化研究における系統比較法の重要性、また種間以上の大進化を研究する点における古生物研究との親和性の高さを痛感した。古生物学者が持つ大きな疑問を系統比較法で定量的に検証できるデータに落とし込む事で、古生物学のみならず進化生物学全体にインパクトのある成果を生み出す事ができる。一方で系統比較法は日本語による解説書が非常に少なく、特に最新の手法に熟練するには困難が伴う。そこで本年度はシンポジウムの開催等を通じて、系統比較法の啓蒙にも力を入れたいと考えている。
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