2017 Fiscal Year Research-status Report
First-Principles Study on Chemical Reactions Induced by Friction: Design of Low Friction and Wear Resistance Materials
Project/Area Number |
17K14430
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大谷 優介 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70618777)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 第一原理分子動力学法 / 密度汎関数強束縛分子動力学法 / トライボロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
省エネルギー・省資源化の要請は、摩擦・摩耗にまで波及し、摩擦界面での化学反応が重要性を増している。摩擦界面では通常では起こらない化学反応が力学的に誘起され、材料の摩擦・摩耗特性に影響するが、摩擦界面の観測は困難で、化学反応機構は未解明の部分が多い。そのため低摩擦・低摩耗に向けた材料設計が困難である。そこで本研究では、量子化学計算に基づく摩擦シミュレーション手法を構築、応用して、摩擦界面での化学反応機構を明らかにする。第一原理分子動力学法(第一原理MD)による高精度摩擦シミュレーション手法と、本研究で新しく構築する、密度汎関数強束縛分子動力学(DFTB-MD)法による大規模摩擦シミュレーション手法を用い、摩擦によって引き起こされる化学反応を明らかにし、低摩擦・低摩耗に向けた分子・材料設計を行うことを目的とする。 本年度は、第一原理MDを用いた高精度摩擦シミュレーションによるケイ素材料の化学反応素過程の解析と、DFTB-MD法による大規模摩擦シミュレーションプログラムの開発を行なった。ケイ素材料の摩擦は摺動部を持つMEMSや水潤滑技術で重要になる。ケイ素材料は摩擦界面において水と反応し、摩耗の増加と摩擦力の低下を引き起こすことが知られているが、その詳細は明らかになっていない。第一原理MDによる摩擦シミュレーションの結果、摩擦界面では、表面同士の接触をきっかけにケイ素材料表面の加水分解反応Si-O-Si + H2O → Si-OH + Si-OHが起ることを明らかにした。加水分解反応は表面のSi-O結合を切断することから、摩耗につながると考えられる。また、DFTB-MD法による大規模摩擦シミュレーションプログラム手法の開発では、必要なプログラムの実装、計算精度の検証と高速化を完了し、大規模摩擦シミュレーションを行う目処がついた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の予定通り、第一原理分子動力学法(第一原理MD)による高精度摩擦シミュレーション手法を用いて、ケイ素材料の摩擦界面での化学反応素過程の解析を行なった。ケイ素材料は摩擦界面での水との化学反応により、摩耗が進行することが知られている。また、水中での摩耗と比較して、酸性溶液中では摩耗量が減少し、塩基性溶液中では摩耗量が増加することが報告されている。しかし、これらの現象のメカニズムは明らかになっていない。そこで、ケイ素材料の酸化膜モデルであるSiO2に対し、第一原理MDによる高精度摩擦シミュレーションを行なった。その結果、摩擦界面の表面の接触部において、表面同士をつなぐブリッジ結合の生成が見られた。トラジェクトリ解析の結果、ブリッジ結合は表面を終端するSi-OH基の脱プロトンを介して起こることがわかった。また、摩擦界面のブリッジ結合は表面を強く引っ張ることから、表面を不安定化させ、SiO2表面の加水分解反応Si-O-Si + H2O → Si-OH + Si-OHを引き起こすことがわかった。加水分解反応はSiO2表面のSi-O結合を切断することから、ケイ素材料の摩耗を促進すると考えられる。また、酸性中溶液中ではSi-OH基の脱プロトンが起こりにくく、ブリッジ結合が生成しにくいために摩耗が進行しにくいことを、塩基性溶液中では加水分解の反応エネルギーが低下することから摩耗が進行しやすいことを明らかにした。 一方、大規模摩擦シミュレーション手法の構築においては、密度汎関数強束縛分子動力学(DFTB-MD)プログラムの開発を行なった。当初の計画どおりに開発は進行し、摩擦シミュレーションに必要なプログラムの実装、計算精度の検証、高速化を完了し、大規模摩擦シミュレーションを行う目処がついた。 これらのことから、当初の計画通りに研究が進展していると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、第一原理分子動力学(第一原理MD)法を用いた高精度摩擦シミュレーションを行い、ケイ素材料の摩擦界面で起こる、化学反応の素過程を明らかにした。また、密度汎関数強束縛分子動力学(DFTB-MD)法による大規模摩擦シミュレーション手法を構築した。平成30年度は、平成29年度の成果を基に、DFTB-MDによる大規模シミュレーションを行い、摩擦界面の化学反応が材料の摩擦・摩耗に与える影響を明らかにし、低摩擦・低摩耗に向けた向けた分子・材料設計に取り組む。 平成30年度も引き続き、ケイ素材料に注目して解析を進める。まず、平成29年度に第一原理MDから明らかになった、摩擦界面での加水分解反応がどのようにして、摩耗の促進と摩擦力の低下につながるかに焦点を絞り、解析を行う。ケイ素材料は摩擦界面において水と反応し、摩耗の促進と摩擦力の低下を引き起こすことが知られているが、その詳細は明らかになっていない。DFTB-MD法を用い、スーパーコンピュータ上で数千原子の大規模な摩擦シミュレーションを行い、摩擦界面における摩耗粉の生成プロセスを解析し、加水分解反応と摩耗の関係を明らかにする。また、加水分解反応がどのようにして摩擦界面での潤滑膜生成につながるかを解析し、低摩擦発現機構を明らかにする。続いて、シミュレーションで得られる知見を基にして、摩擦・摩耗の低減に向けた分子・材料設計指針を構築し、設計指針を検証するシミュレーションを行う。共同研究を行なっている実験グループの協力を得て、検証実験を行い、シミュレーション結果と実験結果を比較することで摩擦・摩耗の低減に向けた分子・材料設計指針を構築する。
|
Research Products
(8 results)