2017 Fiscal Year Research-status Report
Ultrafast measurement of molecular electronic wavefunction by laser-assisted electron impact ionization
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17K14431
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣井 卓思 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20754964)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電子状態 / 電子衝突イオン化 / 強光子場科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子衝突イオン化により生じる散乱電子と放出電子を、レーザーからの一光子吸収に相当する1.5 eV以下のエネルギー分解能でコインシデンス測定する装置を完成させた。 まず、散乱電子用の飛行時間型分析器について、電子銃から発生させた960~1000 eVの直射電子の飛行時間を測定することによってエネルギー校正を行った。得られた飛行時間と電子のエネルギーの関係は、シミュレーションによって得られた値と良い一致を示し、1 eV以下のエネルギー分解能で散乱電子の検出が可能であることが示された。次に、低速電子用の飛行時間型分析器について、散乱点において高強度フェムト秒レーザーを集光することによって生じさせた希ガスの超閾電離(ATI)を利用してエネルギー校正を行った。この時点での低速電子のエネルギー分解能は1 eV程度と見積もられた。 二つの飛行時間型分析器を独立に校正した後、それぞれの分析器に取り付けたディレーライン型検出器を同期させることによって、コインシデンス測定を行った。ヘリウム・ネオン・アルゴンを試料とした実験を行ったところ、生じた高速の散乱電子と低速の放出電子のエネルギーの和が、原子のイオン化ポテンシャルから計算される値と良い一致を示した。特にアルゴンに関しては、3p電子と3s電子それぞれの電子衝突イオン化を同時に測定できることが示された。さらに、得られた電子衝突イオン化のエネルギースペクトルを利用することによって、低速電子用の飛行時間型分析器のエネルギー校正をより精密に行った。その結果、生じた二つの電子のエネルギーの和を1 eV程度のエネルギー分解能で観測することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の目標としてきた放出電子の検出器の最適化と電子衝突イオン化の測定を、ほぼ予定通り実現した。 放出電子の検出器の最適化については、シミュレーションで示唆されていた3~14 eVというエネルギー範囲を超え、1 eV~20 eVという広いエネルギー範囲で測定可能であることが実験的に示された。今回採用した配置における電子衝突イオン化では、1 ~3 eVのエネルギーを持った低速電子の放出が多いため、検出されるイベント数としては当初の見積もりの1~2割程度向上したものと推測される。 電子衝突イオン化の測定についても、当初の目標としていた1.56 eV以下のエネルギー分解能での測定を実現した。カウント数は、一光子吸収を明確に判別できるように入射電子強度を抑えた測定において1 count/s程度となっており、当初の見積もり通りであった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の装置にフェムト秒レーザーを導入することによって、フェムト秒レーザーを用いたレーザーアシステッド電子衝突イオン化の初観測を目指す。 まず、パルス電子・パルスレーザー・ガスを時間的・空間的に同期させることによって、既に報告のあるフェムト秒レーザーアシステッド電子散乱の測定を行う。レーザーアシステッド電子散乱の検出効率は、レーザーアシステッド電子衝突イオン化と概ね一致することから、レーザーアシステッド電子衝突イオン化の観測のために必要な電子衝突イオン化のカウント数を実験的に見積もる。 その後、見積もられたカウント数を達成するための実験装置の改良を行う。現時点では、電子パルスの発生に用いているUVパルスレーザーの時間幅とパルス形を調整し、さらに電子パルスの空間電荷効果によるエネルギー広がりが1 eVを超えない程度まで入射電子線の強度を上げることによって、観測に必要なカウント数を達成できるのではないかと予想している。 これらの予備実験を踏まえたうえで、希ガスを試料としたフェムト秒レーザーアシステッド電子衝突イオン化の測定を行う。この観測を通して、高強度レーザーにより電荷分布が揺すられる様子を表す光ドレスト効果や、放出電子の指向性の大きな変化など、理論的に予想されていた現象について、実験の面から定量的な解を与えられるものと推測される。
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Research Products
(5 results)