2017 Fiscal Year Research-status Report
気相多元素クラスターの熱的条件下における反応性評価と反応機構の解明
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17K14433
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
永田 利明 東北大学, 理学研究科, JSPS特別研究員(PD) (80783373)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クラスター / 反応性 / 幾何構造 / 質量分析 / 昇温脱離 / 赤外分光 / イオン移動度分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
触媒のモデル系として気相中の多元素クラスターの化学反応の研究が重要である。当年度は多元素クラスターの反応解析に向けて、まずその構成要素となる単純な金属クラスターや金属酸化物クラスターの反応解析に取り組むべく、以下の研究を遂行した。 まず、気相昇温脱離法により金クラスター正イオンと水分子との反応性を研究した。レーザー蒸発法で気相中に金クラスター正イオンの水和物を生成し、ヘリウム雰囲気中で加熱する実験手法(気相昇温脱離法)で水分子の脱離過程を観測した。クラスター上の水分子の脱離と吸着は可逆的な過程で、平衡とみなせることが分かった。この結果から、金クラスター正イオン上に水が1~4分子付加する際の結合エネルギーを求めた。 続いて、イオン移動度質量分析法によりセリウム酸化物クラスター正イオンと一酸化窒素(NO)分子との反応性を研究した。気相中にセリウム酸化物クラスター正イオンを生成し、NOと反応させた後、イオンドリフトセルを用いたイオン移動度質量分析を行った。反応によりNOが1分子付加したセリウム酸化物クラスター正イオン(CenO2n(NO)+)が生成したものの、これを電場で加速してイオンドリフトセルへ入射すると解離が起き、CenO(2n-1)+へと変化した。入射エネルギーによって解離確率は変化し、実験室系で30 eV以下の入射エネルギーにおいてはCenO2n(NO)+の組成を保ったままイオン移動度質量分析を行うことができた。この測定結果から各イオンの衝突断面積を求め、量子化学計算から求めた各候補構造の衝突断面積と比較検討することで、NOの付加形態を明らかにした。その結果、NO分子とクラスター上の酸素原子が反応して二酸化窒素(NO2)分子が形成されつつある構造が示唆された。 これらの成果より、クラスター上に分子が結合する強さや構造という、反応性の研究において基礎的な知見が得られたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度は多元素クラスターの反応解析に向けて、その構成要素となる単純な金属クラスターおよび金属酸化物クラスターの反応解析を行い、反応過程におけるクラスターと分子の結合エネルギーや結合形態について明らかにすることができた。当初の目標通り、気相クラスターの化学反応の理解を深めるに当たって有用な知見が得られたといえる。また、イオンドリフトセルを用いた解離過程の観測も当初の予定通りに成功した。このことから、イオンドリフトセルでの解離過程からクラスターの化学反応におけるエネルギーの定量解析を行うという今後の課題が見出された。次年度以降の研究遂行に向けて、多元素クラスターを実験装置内に生成するために新たなクラスターイオン源を現在製作中であり、こちらの準備も順調に進行している。これらのことを踏まえて、当年度の研究計画はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降の研究遂行の方向性としては、全体的により複雑なクラスターを対象として研究を展開していくことを予定している。次年度中に行うこととして、2つの金属元素を含む多元素クラスターについて反応解析を行うことを目指している。まず、そのようなクラスターを生成するための装置開発を行う。そのための新たなクラスターイオン源について現在製作中であるので、これを完成させ、実際に運用できるようにする。クラスターイオン源以外の装置構成は現状から大きく変更する必要はないため、多元素クラスターの生成を達成することが最大の課題となる。研究の方法論としてもこれまでと同様の手法が適用可能であるが、多元素クラスターのような化学組成が複雑な系においては質量スペクトルの複雑化という問題がある。これについて本研究では質量分析とイオン移動度分析を組み合わせた2次元のデータを取得することで、質量スペクトルのみでは分離が困難であったクラスターイオンについても区別して観測し、反応解析を行える見通しである。多元素クラスターの反応性や反応前後の幾何構造を明らかにし、これを構成要素にあたる単純な金属クラスターや金属酸化物クラスターと比較することで、元素混合効果について解明することを目標とする。
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Causes of Carryover |
研究の進行状況から費用対効果を考慮して判断した結果、当初の想定より学会参加の回数が少なかったことから、旅費が予定額よりも少額となった。また、当年度は英文校閲料、投稿料、印刷料といった費用が発生するような形での成果公表を行わなかったことから、その他として計上した経費が未使用となった。これも研究の進行状況と費用対効果を考慮して判断した結果である。これらの残余金は翌年度において、当初計画では予定していなかった国際学会に参加するための経費の一部や、研究をより進展させるための物品費に充当する予定である。
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Research Products
(8 results)