2017 Fiscal Year Research-status Report
分子性結晶のためのQM/MM法の開発と結晶内金属錯体の理論化学
Project/Area Number |
17K14437
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
青野 信治 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 特定研究員 (70750769)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 理論化学 / 遷移金属錯体 / 結晶効果 / 混合原子価 / QM/MM計算 / 吸収スペクトル / 金属サレン錯体 / 溶媒効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(1)我々が独自に開発してきた自己無撞着点電荷に基づく周期的QM/MM法で決定するMM結晶モデルを高精度電子状態計算における静電的補正に利用する事、また(2)自己無撞着点電荷に基づく周期的QM/MM法における反応中心部分とその周囲分子との近距離相互作用について記述精度を向上させる事である。 従来のONIOM法では高精度レイヤーの電子状態計算を行う際に反応中心部分以外の置換基、官能基、周囲分子からの電子的影響を考慮していない点で高精度レイヤーの電子状態の記述に課題が残るが、高精度レイヤーの電子状態計算において無限周期的MM層からの静電効果を考慮に入れた補正を行う事で、その点の改善が期待できる。 そこで本年度は(1)について、電子移動や電荷分離状態を理解するモデルや機能分子として興味深い混合原子価性を示す5配位型Co(III)サレン錯体の高精度電子状態計算において適用した。また比較として溶液中の5配位型Co(III)サレン錯体、また4配位型7族金属(III)および10族金属(II)サレン錯体の混合原子価性について研究を行った。 分子性結晶中における5配位型Co(III)サレン錯体のNMR実験からCo(III)サレンとCo(II)サレンラジカルの電子状態が共存している事が明らかにされていたが、この共存は熱平衡由来ではなく擬縮退系の共鳴効果によるものである事が、結晶効果を取り入れたGMC-QDPT法による高精度電子状態計算によって明らかにできた。 溶液中でも結晶中と同様に共鳴効果があるという計算結果が得られ、5配位型Co(III)サレン錯体が共鳴効果を示すのか、また根本的に混合原子価性を示すのかという点はz軸上の配位子の強さに大きく依存している事も明らかになり、4配位型金属サレン錯体に比べて5配位型Co(III)サレン錯体の持つ複雑な混合原子価性について議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、予定通り上記の概要(1)に重点をおいて研究を行った。 現在、5配位型Co(III)サレン錯体の論文投稿の準備を行っており、同様に周期的QM/MM法によって結晶効果を取り入れた金(I)-イソシアニド錯体の分子性結晶の吸収・発光スペクトルの研究についても論文投稿の準備中である。 また概要(2)について、FMO(2)のように二量体相互作用をHF、DFTレベルで記述する事で近距離相互作用の記述精度を向上させた結晶構造の最適化計算手法を計算プログラムとして実装した。 したがって、「おおむね順調に進展している」と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、当初の予定通りに上記の概要(2)について重点をおき、結晶構造最適化における近距離相互作用の記述の更なる改善として二量体相互作用をMP2レベルで記述する事や、対称性を考慮する事によってQM計算のコストの削減を行う予定である。 またFMO(2)のように二量体相互作用をQMレベルで評価・補正を行う構造最適化の場合にはCPHFを解く必要が生じるが、現時点で実装した計算プログラムでは一部近似を行っており、この評価の妥当性を調べた上で更なるgradientの精度向上を目指す。 近距離相互作用の記述を改善したQM/MMプログラムによって、遷移金属錯体と対イオン分子によって構成されるような分子性結晶について構造最適化を成功させ、更に結晶中での異性化反応などの解析に応用する事を目標とする。 例として、結合異性を取り得る二酸化硫黄の配位子とRu(II)原子から構成される遷移金属錯体は、光照射によって金属中心に結合した配位子が構造的方向と結合性の異なる一つ以上の擬安定構造を持ち、その結晶中での特徴から、基底構造を0、擬安定構造を1と見做して、その構造間のスイッチ制御に成功すれば、光学的データ保存の分子デバイスとして利用できると期待されている。 このような系の分子性結晶中での熱的異性化、光異性化について、周囲分子との近距離相互作用を取り入れた理論的枠組みによって、スイッチ制御因子についての解析を行う予定である。
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Research Products
(4 results)