2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K14457
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
滝沢 進也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (40571055)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イリジウム錯体 / 増感剤 / 人工光合成 / 酸素発生 / ルテニウム錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、人工光合成技術の社会的要請から水の酸化触媒に関する研究が活発化している。さらに、太陽光エネルギーの利用と結びつけるために、ルテニウムトリスビピリジル錯体[Ru(bpy)3]2+を増感剤とする光酸素発生反応も報告されている。しかし、[Ru(bpy)3]2+は水溶液中で光分解しやすく、光酸素発生における分子触媒の評価に課題を残している。本研究は、ビスシクロメタレート型イリジウム(Ir)錯体を新しい増感剤として合成し、それらを用いた光酸素発生反応の実現によって問題点を解決することを目的としている。平成29年度は、主に以下のような結果を得た。 1、主配位子として、トリフルオロメチル(CF3)基を置換した2-(2-ピリジル)ベンゾチオフェン、補助配位子として2,2’-ビピリジル(bpy)誘導体を有する新規Ir錯体の合成に成功した。bpy配位子には、ブロモ基、メトキシカルボニル基、CF3基などの電子求引基を導入し、酸化電位を上げるような設計を施したが、励起状態の寿命が短くなり増感剤としては適切でないことが分かった。一方、無置換のbpyを補助配位子とするIr錯体1は、犠牲的電子受容体に電子を供与するのに充分な寿命の光励起状態を持ち、かつ一電子酸化体が[Ru(bpy)3]3+と同程度の酸化力を有することが確認された。 2、Ir錯体1が増感剤として働くことが期待されたため、過硫酸ナトリウムを電子受容体、Ru錯体を分子触媒とする光酸素発生反応を検討したが、残念ながら酸素は発生しなかった。Ir錯体の燐光は過硫酸ナトリウムによって消光されることが確認された。従って、導入された強い電子求引基により一電子酸化体の安定性が低くなり、触媒サイクルに含まれる化学種の酸化過程が効率よく進行していないものと考えられた。他にも種々のIr錯体を増感剤として評価したが、目標とする光酸素発生は実現できていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
種々のIr錯体を検討したにも関わらず、光酸素発生反応の増感剤として機能する錯体を未だ見出すことができていない点では「やや遅れている」と自己評価せざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、Ir錯体を増感剤とするプロトンおよびCO2光還元反応が盛んに研究されているが、水の酸化反応(光酸素発生反応)は全く報告例がない。その観点から本研究は非常に挑戦的であり、そのネックとなっている要因を明らかにすることには大きな意義がある。Ir錯体の一電子酸化体Ir(IV)の酸化力はRu触媒を酸化するのに充分であるにも関わらず酸素が発生しないのは、現時点ではIr(IV)の安定性に問題があるためではないかと推測している。それが妥当な考察かどうか、そしてIr(IV)による何らかのプローブ基質の一電子酸化が実際に困難なのかを検証するために、対象の反応系をより単純な一電子光酸化反応に変更し、増感特性を評価する。 具体的には、4-ブロモベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(ArN2)を犠牲的電子受容体、種々のIr錯体を増感剤とする鉄(II)錯体またはトリス(4-ブロモフェニル)アミン(tBrTPA)の光酸化反応を検討する。用いる予定のFe錯体は566 nmに吸収帯を持ち、tBrTPAのラジカルカチオンは702 nmに吸収帯を有する。一電子酸化を受ける化合物または酸化体に特徴的な吸収がある点が重要であり、光照射に伴うそれらの変化によって反応を追跡および速度論的な解析ができると期待される。これらの反応では、酸化的消光過程でIr(IV)を生成させることを想定しており、いずれもアセトニトリル中で反応を行う。その結果を評価し、Ir増感剤の分子設計にフィードバックをかけることで、光酸素発生反応の実現への足掛かりを掴む。
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Causes of Carryover |
理由:平成29年度は主に新規Ir錯体の合成と物性の評価に重点をおいて研究を進めた。さらに、最も典型的な光反応条件を適用して、それらの増感特性を調査した。しかし、光酸素発生反応の増感剤として機能するIr錯体を見出せなかったため、その後の条件最適化で使用する予定であった反応用溶媒、GCの高純度アルゴンボンベ、交換用キセノンランプのための支出が少なく、平成29年度助成金に若干の余剰金が生じた。 使用計画:平成30年度も引き続き新しいIr錯体の合成に取り組む必要があり、そのための試薬・有機溶媒・ガラス器具を購入する。さらに、「今後の研究の推進方策」で示した光酸化反応も精力的に行う予定であるが、全く新しい反応系となるため、条件検討のために充分な消耗品が必要となる。また、助成金は国内学会発表の旅費や投稿論文の英文校閲料にも有効に使用させていただく。
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Research Products
(12 results)