2017 Fiscal Year Research-status Report
湾曲π共役面を持つ新規金属埋め込み型ナノチューブの構築
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17K14459
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
酒田 陽子 金沢大学, 物質化学系, 助教 (70630630)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マクロサイクル / 自己集合 / テンプレート / トリプチセン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、酸化還元応答性を兼ね備えた金属含有湾曲π共役ベルト状分子とその集積体の構築ならびにこれらを用いた機能開拓を行うことを目的としている。平成29年度は、屈曲型配位子としてテトラアミノトリプチセンLを用い、金属イオンとの自己集合によりベルト状構造の効率的な構築を試みた。その結果、アセトニトリル中でテトラアミノトリプチセンLとPd(II)イオンを錯形成させると、三核、四核、五核のベルト状金属錯体の混合物が得られることが各種スペクトルにより明らかとなった。また、この混合物から得られた結晶の構造解析により、四核ベルト状金属錯体の結晶構造を明らかにし、目的のベルト状構造の形成を確認することができた。さらに、テンプレートを用いた選択的な単一サイズのベルト状金属錯体の形成を目指し、ピラーアレーン誘導体存在下、同条件で錯形成を行った。その結果、トリエチレングリコール(TEO)鎖を導入したピラー[5]アレーン誘導体(T-P5)存在下同条件で錯形成を行ったところ、T-P5が一分子包接された四核および五核のベルト状金属錯体の形成が確認された。同じ側鎖を持つ環サイズのより大きなピラー[6]アレーン誘導体(T-P6)をテンプレートとして用いた場合は、T-P6が一分子包接された五核のベルト状金属錯体が選択的に形成することが見出された。一方、側鎖としてモノエチレングリコール鎖を導入したピラー[6]アレーン誘導体(M-P6)はベルト状金属錯体と相互作用せず、テンプレート効果を示さなかった。このことから、ピラー[6]アレーンの分子サイズが適合することに加え、TEO鎖とアミノ基との水素結合が五核ベルト状金属錯体の選択的形成に重要であることが明らかとなった。さらに、イオン性のベルト状金属錯体とT-P6との溶解性の差を利用することで、五核ベルト状金属錯体の単離に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金属配位結合を駆動力とした自己集合は高収率で環状分子を得る上で非常に有用な手法である。これまでに報告されている自己集合型金属環状錯体は、単座配位子を構成要素とする例が多く、金属イオンと配位子間の自由回転が可能な部位を持つものがほとんどであった。一方、本研究で目的とするような、自己集合を利用した自由回転ができないベルト状分子を構築した例は少ない。平成29年度における研究では、キレート型の金属錯体によって剛直な屈曲型配位子を連結するという手法を用いることで、金属配位結合を駆動力としたベルト状金属錯体の効率的な構築を達成した。また、単純に配位子と金属イオンを混合するだけでは、環サイズが異なる環状錯体の混合物が得られたため、テンプレートを用いた単一構造の形成を検討した。当初は、電子不足な金属錯体と電子豊富なジアルコキシベンゼンが相互作用すると期待し、ピラー[n]アレーン誘導体をテンプレートとして利用した。しかし、様々なテンプレートを用いた検討の結果、ピラー[n]アレーンの主骨格であるジアルコキシベンゼンではなく、側鎖であるトリエチレングリコール鎖が金属錯体と相互作用していることがわかった。これは、今後この金属錯体を用いてテンプレート自己集合を行う上で、重要な知見であると考えらえる。すなわち、トリエチレングリコール鎖を持つ様々なサイズの分子をテンプレートとして用いることで、今回得られた五核ベルト状金属錯体のみならず、様々な環サイズのベルト状金属錯体が得られると期待される。また、このテンプレートはベルト状金属錯体との溶解性の差を利用することで容易に除けるため、テンプレートはあくまでも単一サイズの環状錯体を得るために用いられ、続くベルト状金属錯体の機能探索を行う上で阻害しないことも得られた重要な知見である。以上のことから、研究はおおむね順調に進展したと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、五核ベルト状金属錯体の効率的な合成に成功している。平成30年度は、この単離した五核ベルト状金属錯体の性質をさらに詳細に調べる。まずは、自己集合により形成したこのベルト状金属錯体の各種溶媒中における安定性を評価する。一般的に、金属配位結合を駆動力として形成される自己集合型環状錯体では、配位子交換が速い場合、混合物の中からテンプレートを用いて単一の構造を形成しても、テンプレートを除くと再び熱力学的に安定な平衡混合物に変化してしまう可能性が高い。一方、本研究で合成した五核ベルト状金属錯体はキレート型の金属錯体により連結されているため、配位子交換が比較的遅く、サイズ変換に対して安定であることが期待されるため、それについて検討する。 また、得られたベルト状分子は、芳香環および金属錯体の壁で囲まれた高度に規定された1.5 nm程度の内部空間を持ち、様々な分子を包接可能と期待されるため、種々のゲストに対する認識能を調べる。まずはテンプレートとして用いたピラー[n]アレーン誘導体との相互作用を検討する。さらにお椀型分子であるカリックス[n]アレーン誘導体や、フラーレン誘導体などに対する認識能を調べる。官能基を導入した他の屈曲型配位子を用いた五核ベルト状金属錯体の合成も行い、本手法の一般性についても検討する。より挑戦的な課題として、ベルト状金属錯体内の屈曲型配位子の一部を化学変換することで、湾曲π共役面を持つベルト状分子合成も試みる予定である。
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Causes of Carryover |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初の予定どおりの研究を進めていく。
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Research Products
(8 results)