2018 Fiscal Year Research-status Report
フォトスイッチングイオン液体の開拓:価数変化を利用した液体物性の光制御
Project/Area Number |
17K14474
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Research Institution | Tokyo University of Science, Yamaguchi |
Principal Investigator |
舟浴 佑典 (舟浴佑典) 山陽小野田市立山口東京理科大学, 工学部, 助教 (20734312)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イオン液体 / スピロピラン / フォトクロミズム / 光応答性 / 熱物性 / 極性変化 / 結晶構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、価数変化を伴う光応答性分子骨格を利用し、光によって物性変化を示すイオン液体の実現を目的とする。本年度はイオン性スピロピラン系の分子構造や組成を拡張し、分子周辺の環境が光異性化に及ぼす影響を評価した。 (1) ピリジニウム環を有するスピロピラン系イオン液体について、フォトクロミズムの熱戻りを速度論的に解析した。また、溶媒極性パラメーターを用いて分子が感じる極性を評価した。アルキル鎖が短い塩については、引き続き単結晶X線構造解析から結晶中の空隙を決定した。アニオン種やカチオン中の置換基のサイズに応じて結晶中の空隙サイズが増減しており、概ね良好な相関が見られた。これらのスピロピランを粘土層間に内包した膜において、光および熱異性化途中の中間体が存在することを時間変化分光測定から明らかにした。 (2) 前年度新規に合成したカチオン性スピロピラン塩が、逆フォトクロミズムを示す物質であることをNMRスペクトル、UV-vis吸収スペクトルおよび単結晶X線構造解析から明らかにした。DFT計算の結果と合わせて、電子的な効果が逆フォトクロミズムに寄与していることが示唆された。アニオン種の異なる複数の塩を新たに合成し、結晶状態の光異性化の可否についても予備的に検討した。 (4) 異なる比率のスピロピラン塩-イミダゾリウム塩混合型イオン液体を合成した。既知の光応答性イオン液体に比べて10倍近くクロモフォアを含み、比較的低粘度の液体が実現した。光異性化の熱戻り反応を速度論的に評価し、光スイッチに有望であるとの結果を得た。また、新規イオン性側鎖を含むスピロピランの合成を試み、室温イオン液体として有望であるとの知見を得た。 (5) スルホナート基を含むアニオン性スピロピランと疎水性アンモニウムカチオンを組み合わせた塩を設計した。光異性化を示す塩を単離したが、高融点かつ吸湿性のため取り扱いが困難であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) カチオン性スピロピランを含む系について、イオン液体単体での光異性化反応と熱戻り反応を評価した。また、イオン液体、混合イオン液体、結晶、粘土層間といった多様な形態で一つの骨格分子の異性化反応を調べることができ、分子の周囲の立体的・電子的環境との相関に関する情報が集積されつつある。これは、本研究で目標に掲げる「液体物性の光制御」実現の有用な知見となる。加えて、室温で液体の塩を与える可能性の高い新規カチオン性スピロピラン1例の合成経路を開拓したこと、逆フォトクロミズムを示すカチオン性スピロピラン1例を見出し、異性化挙動を詳細に評価したことは当初の計画以上の進展である。これらの骨格を用いることで、より広範な光応答性機能の可能性が期待できる。当初計画していた、単結晶の温度可変顕微分光については、引き続き準備段階にある。 (2) アニオン性スピロピランを含む系について、親水性が高く溶媒抽出による合成が困難であったが、対イオンとして疎水性のアンモニウムカチオンを用いることで単離が可能であることが示された。目的物は吸湿性を示したことから、イオン液体として用いるためにはさらなる疎水性の向上が必要であるとの知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の結果をもとに、スピロピランを含む塩の開発・光応答性評価を継続する。混合イオン液体や粘土鉱物複合体についても物質開発を進める。室温イオン液体のうち、適切なものを選びスイッチング溶媒能を評価する。 (1) カチオン性スピロピランを含む系について、新規側鎖型スピロピランと逆フォトクロミックスピロピランの2系統を中心に物質開発を展開する。アルキルスペーサー鎖長、末端アルキル鎖長、イオン性置換基、アニオン種を変化させ室温で液体となる塩の探索を継続する。平行して、鎖長の短い塩に関しては、ファイバー式分光器を用いた単結晶の可視吸収スペクトル測定を行い、光異性化および熱戻り反応を速度論的に評価する。結晶構造と異性化挙動のより詳細な相関を解明する。 (2) 混合イオン液体系について、オニウム塩のカチオン依存性を精査する。光応答性を評価し、溶媒能のスイッチング特性をモデル反応等で評価する。 (3) アニオン性スピロピランを含む系については、今年度得られた指針をもとに、骨格の異なる複数の対カチオンと組み合わせた塩の合成を継続する。必要に応じて、スピロピランのアニオン性置換基を修飾・置換する。 上記の3系統について、光、温度、pH変化、金属イオン添加などの外場を複合的に組み合わせた多段階・多重制御の可能性を探索する。材料科学への展開として、光応答性を利用したセンサー・ディスプレイデバイス化に挑戦する。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していた低温恒温スターラーについて、他社製のものと合わせてデモ機による評価を実施し、より安価で高性能の機器を購入した。これらの支出は、次年度使用額としてスピロピラン合成原料および元素分析費、論文校正費に充てる予定である。 また、初年度繰越額を高圧発生装置の製作費、サファイアアンビルの購入費に充てる予定であったが、予備的な検討は研究室現有装置で可能であったことと、専用の新規装置は設計・試行段階にあることから次年度に送ることとした。
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