2017 Fiscal Year Research-status Report
ホスフィン-ボラン配位子と遷移金属触媒による炭素-酸素結合活性化法の開発
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17K14486
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
小野寺 玄 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (90433698)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ホスフィン-ボラン / パラジウム / アリルアルコール / ベンジルアルコール / アリル化反応 / ベンジル化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではホスフィン―ボラン配位子を有する遷移金属錯体触媒を用い、ルイス酸部位と中心遷移金属の電子的環境および触媒分子全体の立体構造を制御することで炭素―酸素結合活性化反応における触媒の高活性化を目指している。 今年度は3種類の触媒反応について検討を進めた。1つは、活性メチレン化合物のアリル化反応である。この反応ではホスフィン-ボラン配位子のリンとホウ素の連結部分の構造が触媒活性に大きく影響し、ブチレン鎖で連結されたものが最も高い触媒活性を示した。基質適用範囲も広く、多様なアリルアルコールと活性メチレン化合物を用いることができた。また、リン配位子と有機ホウ素化合物を別々に加えた場合にはほとんど反応が進行せず、リンとホウ素が連結されたホスフィン―ボラン配位子の有効性を示すことが出来た。次にこの研究成果をシリルエノラートのアリルアルコールによるアリル化反応へと展開した。現在までに低収率ながら対応するα-アリルケトンが得られている。この反応においても、架橋部位の構造が収率に影響することがわかった。また、リン上の置換基も重要であり、電子豊富な芳香環が適していることを見出した。3つ目の触媒反応は、ベンジルアルコールを用いたアミンのベンジル化反応である。この場合にはエチレン鎖で架橋されたホスフィン-ボラン配位子が最も有効であり、高い収率で対応するベンジルアミンを得ることができた。ベンジルアルコールおよび2級アミンの適用範囲も明らかにした。上述したいずれの反応においても、ホウ素部分は9-BBN骨格を持つことが必須であり、9-BBNの高いルイス酸性が重要であると推察される。 以上の研究成果は、ホスフィン―ボラン配位子が炭素―酸素結合の活性化に有効であり、様々な位置の水酸基を直接的に官能基変換する触媒反応へと展開できることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、活性メチレン化合物およびシリルエノラートのアリルアルコールによるアリル化反応について、ホスフィン―ボラン配位子の構造が触媒活性に与える影響を調べた。活性メチレン化合物のアリル化においては、リンとホウ素とを架橋している炭素鎖の長さが特に重要であり、ブチレン鎖が最も有効であった。架橋部位がより短いプロピレン架橋のものやエチレン架橋のものを用いた場合には収率が低下した。架橋されていないホスフィン配位子と有機ホウ素とをそれぞれ加える手法では反応がほとんど進行せず、ホスフィン―ボラン配位子の有効性が確認された。アリルアルコール上の置換基の位置や種類、および活性メチレン化合物の種類についても検討を行い、この触媒系が幅広い基質適用範囲を有することも明らかになった。これらの結果に関しては査読付原著論文として投稿し、受理されている。シリルエノラートのアリル化においてもブチレン鎖で架橋されたホスフィン―ボラン配位子が最も良い結果を与えたが、収率は30%程度にとどまっており、より高い触媒活性を示すような配位子を設計する必要がある。シリルエノラートのアリル化においては、架橋部分の構造に加えて、リン上の置換基を変えることでパラジウムの電子密度を調整する方法が有効であることがわかってきた。さらに、計画通りベンジルアルコールを用いたアミンのベンジル化反応の開発についても順調に進行している。この反応にはエチレン鎖で架橋されたホスフィン―ボラン配位子が最適であり、様々な1級ベンジルアルコールと2級アミンとの反応によって、対応するベンジルアミンが高収率で得られることがわかった。以上のように、本研究は当初計画した通り、活性メチレンおよびシリルエノラートのアリル化反応とアミンのベンジル化反応の開発まで順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
シリルエノラートのアリル化反応については、新規ホスフィン―ボラン配位子を設計・合成して触媒反応に用いることで収率の向上を目指す。これまでの研究によって架橋部分の構造とリン上の置換基が重要であることがわかっているため、それらについて詳細に検討する。収率が向上すれば、基質適用範囲の調査を行う。アリルアルコールにおける置換基の位置及び種類、シリルエノラート上の置換基を変えたものを原料として触媒反応を行い、得られるアリル化生成物の収率を比較する。 ベンジルアルコールを用いたベンジル化反応については、これまでに2級アミンのベンジル化反応が効率よく進行することを明らかにしている。今後は炭素原子求核剤とベンジルアルコールとの反応による炭素―炭素結合形成反応の開発を目指す。予備的な結果として、電子豊富なヘテロ芳香環であるインドールとベンジルアルコールとの反応により、3-ベンジルインドールが低収率ながら生成することを明らかにしている。この反応の反応条件を精査し、収率の向上を目指す。これまでに開発した触媒反応では、求核剤に応じて最適なホスフィン―ボラン配位子を適切に選択する必要があった。本反応においても配位子の構造と収率との関連性を明らかにする。 さらに、フェノール類やアニソール類を用いたカップリング反応の開発にも着手する。これまでに得られた、アリル位やベンジル位のsp3炭素―酸素結合の切断に関する知見を元に、フェノール類やアニソール類におけるsp2炭素―酸素結合の切断に取り組む。まずはこれまでに研究を進めてきたパラジウム触媒と多様なホスフィン―ボラン配位子との組み合わせを用いて、カップリング反応が進行する触媒系を探索する。計画通りに進まない場合には、ニッケル触媒についても検討を行う。
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Causes of Carryover |
試薬類の無駄を省いて効率的に使用したことと、実験器具の破損等が当初の予想よりも少なく、消耗品費が予想よりも低額で済んだことが、次年度使用額が生じた主な理由である。 平成30年度分として請求した助成金と合わせた使用計画を下記に示す。引き続き有機合成用試薬類および実験用消耗品が必要であるため、1,497,733円を物品費として使用する。学会発表に必要な旅費として当初の予定通り400,000円を計上する。その他経費として200,000円を計上し、合計で2,097,773円を使用する計画である。
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Research Products
(5 results)