2019 Fiscal Year Research-status Report
Drug Derivery to Cancer Cells Utilizing Active Trasport of Diphtheria Toxin Protein
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17K14520
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
服部 良一 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (60778140)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生体分子化学 / タンパク質工学 / ドラッグデリバリー / ケミカルバイオロジー / NMR / 生体機能化学 / 物理系薬学 |
Outline of Annual Research Achievements |
オフターゲットによる副作用が致命的となる抗がん剤や、核酸医薬に代表される細胞膜透過性の低い水溶性の薬剤開発において、そのデリバリー制御はきわめて重要な課題となる。薬剤に細胞特異性および細胞内導入能を付与するため、本研究では、受容体介在型エンドサイトーシス経由で細胞質に侵入するジフテリア毒素タンパク質に着目した。ジフテリア毒素無毒変異体と薬剤・生体高分子を化学的あるいは遺伝子的に連結することにより、その生物学的機能を利用したデリバリーシステムを開発する。なお、ジフテリア毒素は無毒化変異体を用いる、あるいは毒性の原因となる酵素ドメイン(Aフラグメント)を遺伝子的に欠失させるため、問題とならない。 2017年度は、ジフテリア毒素タンパク質の無毒変異体CRM197を蛍光標識し、Vero細胞への高効率な細胞内導入が観察された。蛍光標識、および、オリゴDNAとCRM197のクロスリンク体を合成した。 2018年度は、酵素ドメインを欠失した大腸菌組換え発現系を各種構築した。酵素ドメインをGFPまたはユビキチンに置換した融合タンパク質の場合は、CRM197の場合と同程度にGFPあるいはユビキチンが細胞内に導入された。さらに、ジフテリア毒素とジスルフィド結合によって連結した蛍光分子やGFPの細胞内導入にも成功した。ジフテリア毒素Bフラグメントのみで、有機低分子やタンパク質を細胞質に送達できることがわかった。 2019年度は、質量分析 (Spiral-TOF-MS) により、ジフテリア毒素無毒変異体と低分子化合物の連結体の直接観測、および、結合比/結合部位の確認を行い、当初の予定通りHis21残機に目的分子1分子のみがクロスリンクされていることを確認した。このように、サンプル自身の構造が確定し、これまでの実験結果が、計画した通りの化学構造によってもたらされていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジフテリア毒素の無毒変異体CRM197を用いた系については、細胞質に移行する酵素ドメイン中のHis21選択的な化学修飾反応を応用した。この手法はオリゴ核酸にも適用が可能であった。すなわち、CRM197を薬剤の輸送体として用いる基盤技術が確立したといえる。さらに、酵素ドメインを欠失した組換えタンパク質を3種類設計し、すべてにおいて細胞内導入および細胞質移行を可能にした。 1つ目に、毒性発現に関わるジフテリア毒素Aフラグメントを欠失させて、遺伝子的にGFPに置換した融合タンパク質を作製した。これはジフテリア毒素の酵素ドメインがエンドソームから細胞質に移行する際に、フーリンによるペプチド結合切断および還元的環境でのジスルフィド結合切断によって遊離する機構を利用している。これによって、酵素ドメインを欠失したジフテリア毒素と融合したGFPが細胞内で遊離し、細胞質へ高効率に移行されることが示された。2つ目にはジフテリア毒素Aフラグメントを欠失させ、薬物を化学修飾するためのシステイン変異を導入したユビキチンに置換した。この場合では、ユビキチンC末端加水分解酵素によってユビキチンはジフテリア毒素から遊離し、実際、高効率に細胞質へ移行させることができた。3つ目はジフテリア毒素1-199を欠失させ、残ったC201残基を薬剤の化学修飾部位とした。修飾反応においてはC201とジスルフィド結合によって低分子化合物やタンパク質を連結した。これらについても、細胞内導入および細胞質移行されることが示された。これらの活性に加えて、サンプル自身の構造が確定し、これまでの実験結果が、計画した通りの化学構造によってもたらされていることがわかった。 このように、本研究のメインテーマである、毒素タンパク質を利用したドラッグデリバリー系が開発できており、概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ジフテリア毒素の無毒変異体CRM197を用いた系については、今後siRNAなどの機能性核酸や細胞毒性を示す抗がん剤を化学的に連結させ、細胞内導入した際の活性を評価する。低分子化合物である薬剤を連結させる上では、細胞内導入後に自発的な脱離反応によって薬剤が遊離する機能性リンカーによって連結させる。これによって、細胞内で薬剤はジフテリア毒素から遊離し、本来の化学構造となる。
従って、今後の研究方針としては、薬効を有した有機化合物のデリバリー系としての有効性を示すことに力点を置きたい。低分子から中分子の有機化合物のうちで、薬効としては優れていても、標的へのデリバリー特製の悪さや、体内動態が悪いために、副作用が出ているものが多数ある。本研究課題で提案する毒素タンパク質によるデリバリー系を利用すれば、細胞特異性が上がるため、標的細胞以外の細胞に薬剤が間違ってデリバリーされることを大幅に抑えることができると考えられる。さらには、細胞への侵入効率も高いため、投与量を少なくすることも可能であろう。その結果、副作用を発現する濃度より大幅に低い濃度で、薬効を出すことも可能になると期待される。なお、このような効果を検証するためには、毒素タンパク質と低分子薬剤化合物のクロスリンク体の作成が不可欠である。まずは、5-フルオロウリジン(5-フルオロウラシルの体内での代謝構造)等のいくつかの低分子性薬剤とジフテリア毒素Bフラグメントの連結体作製を試みる。連結体が得られれば、活性評価を行いたい。
本研究の発展的課題としては、あらかじめ安定同位体標識した核酸やタンパク質を高効率に細胞内導入できれば、その細胞内動態を直接的にNMR検出する「in-cell NMR法」への応用が期待される。In-cell NMR法のサンプルの細胞内導入法としてもジフテリア毒素の機能を利用していきたい。
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Causes of Carryover |
2019年度の後半に、体調を崩してしまい、それ以降、大学での実験が遂行できていない。これまで計画的に予算を執行してきたが、年度後半以降、実験遂行が不能となったため、残額が残ってしまった。年度内の職場復帰ができなかったため、補助事業期間延長申請を行い、認められた。そこで、職場復帰後に、実験を行う予算として使用したい。
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