2017 Fiscal Year Research-status Report
Development of environmental cleanup system with spontaneous running droplet
Project/Area Number |
17K14523
|
Research Institution | Shizuoka Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
南齋 勉 静岡理工科大学, 理工学部, 講師 (20563349)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 環境浄化 / 自己組織化 / イオン会合反応 / 油水界面 / マランゴニ効果 / 脱ぬれ |
Outline of Annual Research Achievements |
外力を必要とせずに自発的に水中の環境汚染物質を回収しながら走行する油滴の設計に向けた基礎的検討を行った。この油滴は,水中の溶質を内部に取り込む際に走るエネルギーが生み出されることから,水中に存在する汚染物質を自発的に回収する環境浄化システムに応用することができると考える。 本研究では,これまでに明らかになった運動機構をもとに系の最適化を行ない,難分解性界面活性剤の濃縮回収システムを構築することを目標としている。これまで申請者は,芳香族を中心に多くの種類の油滴溶媒を用いて,自発走行現象の運動性と溶媒物性との関係について検討してきた。しかし,ニトロベンゼンを超える運動性を示す油滴溶媒は未だ見出せていない。予備的な研究成果から,基板への濡れ性や比重,粘性など,自発運動に影響する油滴溶媒の物性が明らかになってきた。また,油相溶媒の水相への相溶性は界面張力の不均一性を生み出すことから,その影響が示唆されてきた。そのため,平成29年度はニトロベンゼンよりも高い運動性を示す油滴溶媒を見出すことを念頭に,ニトロベンゼンの水相への溶解の寄与について検討を行った。 油滴の自発的走行現象に対して,油相溶媒の溶出による界面張力への影響よりも,解離状態の油滴溶質が油滴内に存在することによる脱ぬれ現象への影響が大きいことが示された。このことから,高い極性が運動性に影響を与える理由として、界面活性剤と会合反応する解離状態のイオンの油水分配との関係が示唆された。これに基づき30年度は解離状態イオンが油滴中に分配しやすい油相溶媒を選択する方針が立てられた。油相溶媒として,トルエンをはじめとした比重が水より小さい芳香族溶媒を油滴とした,天地逆転の系における運動性の定量化実験をすでに進めている。 本内容に関しては,29年度日本化学会春季年会で口頭発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請当初の29年度の実施計画は,「油滴溶媒の脱ニトロベンゼン化」を大きな目標として,①油滴溶質の運動性への影響評価 ②比重が水より小さい油滴溶媒の検討 ③環境負荷の少ない溶媒の選択,の3項目を掲げていたことから,概ね順調に進行している。 ①に関して,従来,油滴溶質としてヨウ素が用いられてきたが,その反応は複雑であることや,ニトロベンゼンへの溶解性が低いヨウ化カリウムを飽和濃度で溶解させる必要があることなど,その系は複雑さを含んでいた。このことから,本研究では, BTB(ブロモチモールブルー)をはじめとする陰イオン性の有機化合物を油滴溶質として用いた。その結果,ヨウ素を溶質とした時よりも高い運動性を示した。これは,界面活性剤分子との反応性が増大したことに由来すると考えられる。 ②に関して,ニトロベンゼンのように比重が水より重い溶媒は,軽い溶媒より種類が少ない。溶媒選択の幅を広げるために計画していたが,むしろ対象が広いために,比重以外でのニトロベンゼンの自己駆動に影響する物性を明らかにする必要が生じた。そのため,従来指摘されていた水相への相互溶解性に着目し予備的検討を行った。その結果,油相溶媒の極性の高さは水相への溶解性に寄与するのではなく,イオン化した溶質の溶解性に影響するために重要であることが明らかになった。現在,この結果に基づき比重が水より小さい油滴溶媒の種類を絞ったうえで,検討を進めている。 ③に関して,イオン化した溶質を油相中に溶存させるには,ある程度の極性の高さが必要であり,その結果,水相への溶解性も増大することが予想される。特異的に,溶質溶解性の高さと水相への溶解性の低さを併せ持つ溶媒を探索するか,もしくは,環境水中への拡散を見越して生分解性の高い溶媒を選択することが実用化に向けて考えられる。この検討については運動性の支配要因が明らかになってから対応できると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
29年度に得られた結果をもとに,ある程度の極性を有し,イオン化した溶質を内包できる油滴溶媒について,水よりも比重の小さいものを用いることで選択の幅を広げる。そのため系を上下逆にして,水槽中に沈めたガラス管内の上面を走行させる実験を引き続き行う。 当初の予定通り,また難分解性の陰イオン界面活性剤を回収対象とするために,表面が正電荷を持つようにコーティングされた2種のガラス基板(松浪硝子工業株式会社製APS, MAS)を用いて陰イオン界面活性剤を静電吸着させる。APS,MASは共にガラス表面にアミノ基による正電荷が付与されているが,MASコートガラス表面上はAPSコートガラスに比べアミノ基が高密度に結合し陽イオン性が強まり、より親水性が高くなっている。ガラス表面の濡れ性は油滴の接触角に大きく影響し運動性が変化するため,コーティング剤の最適化を行う。 陰イオン性界面活性剤とイオン会合反応を起こす油相溶質の最適化を目指す。疎水的イオン会合の場合、疎水的で嵩高く,イオン半径の大きいイオン間ほど会合しやすいことから、油滴溶質として,窒素の周りに4本のアルキル鎖を持つテトラアルキルアンモニウム塩を用いる。応募者のこれまでの研究結果から,アルキル鎖長が長くなるほどイオン会合反応が促進されると考えられるが,この反応が速すぎると接触角が高いまま変化せず,走行現象が見られなくなる。このため,回収対象である陰イオン界面活性剤の炭素鎖長を変化させた場合,最適な油相溶質サイズが存在するはずである。界面活性剤のガラス吸着とイオン会合反応を速度論的に解析することで,回収対象に合わせた油相溶質サイズの最適化と規格化を行う。 将来的な実用化の目標でもある,環境影響が危惧されているフッ素系界面活性剤であるペルフルオロアルキルスルホン酸PFOSやペルフルオロアルキルカルボン酸PFOAを回収対象とした基礎検討を始める。
|
Causes of Carryover |
当初の予定通り,液体クロマトグラフシステムを購入したが,キャンペーン価格で入手できたことから差額が生じた。差額は30年度分の請求助成と合わせての試薬や器具の購入に充てる。 その他に30年度はスイスで開催される国際学会Gordon Research Conference (Oscillations & Dynamic Instabilities in Chemical Systemsに参加するため旅費を計上している。
|
Research Products
(1 results)