2017 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of thermophysical properties for liquid thin film
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17K14612
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Research Institution | Akashi National College of Technology |
Principal Investigator |
田中 誠一 明石工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (00599251)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 石けん膜 / 薄膜 / 熱物性 / 非定常短細線法 / 散逸分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
(a)測定システムの製作:従来の測定系の問題であった、加熱電流の切り替え時の電流の不安定さを解消するために、電流値を自動で切り替える電源を用い、さらにデータ分解能の不足を補うために、複数のデータロガを同期させてデータ取得を可能とした。これにより再現性の高い測定系を実現した。また、恒温槽内に石けん膜プローブ固定治具を製作し、細線法による温度上昇と紫外赤外分光装置による膜厚測定を恒温恒湿度環境で同時測定可能とした。 (b)数値解析モデルの改良:作成した薄膜の細線近傍の形状をマイクロスコープおよび電子顕微鏡で観察し、実際の膜に近い計算モデルを作成した。さらに、細線近傍の計算格子寸法以下の形状を再現するために、格子内の固気液の体積分率を考慮した熱輸送計算とし、従来に比べより高精度な計算が可能となった。 (c)予備データの取得:石けん膜の熱物性値測定の予備実験として、液膜内の対流を完全に除去した比較データの取得を、固体薄膜を作製して実施した。固体薄膜は本研究で用いている石けん膜プローブにPVA(ポリビニールアルコール)水溶液の液体膜を張り、乾燥させることで作成した。得られた熱物性値は熱伝導率、熱拡散率ともにバルク参照値の100倍以上となった。この結果は(b)で測定した細線近傍の形状が、細線長手方向で変化している、裏表で大きく形状が異なる、液だまりが細線近傍にある、などの要因によって実際の膜形状と計算モデルが一致していないためと考えられる。(b)の内容も併せて次年度対策を検討する。 (d)界面活性剤水溶液のDPD シミュレーション:エネルギー輸送を解析可能としたDPD 法(散逸粒子動力学法)を用いて両親媒性分子を混入した水に対し計算を行った。その結果、濃度によって形成されるミセルの形状が変化し、このときの系の熱伝導率がミセルの形成方向に依存することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(a)測定システムの製作:測定回路系は十分な性能の電源およびA/Dコンバータが準備できた。膜厚測定系についてもこれまで廉価モデルを利用して測定系の試作を行っていたため構築は完了した。石けん膜を張るプローブを水平に固定し、恒温槽内に設置する治具は試作が完了しているので評価し完成させる予定である。 (b)数値解析モデルの改良:本解析モデルを並列計算によって計算する計画は、現有するGPGPUによって試算してみたが、陰解法を用いているため大きな計算時間の短縮につながらなかった。そこで計算条件、計算方法の最適化を実施することで計算時間を半減させることができた。本結果をもって計算コストの低減は実現できたと考える。 (c)予備データの取得:石けん膜の熱物性測定方法の精度確認のために、PVA膜を固めた固体薄膜を用いて本手法の精度の検証を行っている。しかしながら、細線近傍の形状が、細線長手方向で変化している、裏表で大きく形状が異なる、液だまりが細線近傍にある、などの要因によって、細線近傍の膜形状を計算モデルに反映させることが難しい問題が発生している。今後、より高精度な膜形状測定と液膜の場合の形状への影響を調査する必要がある。 (d)界面活性剤水溶液のDPDシミュレーション:エネルギー輸送を解析可能としたDPD 法(散逸粒子動力学法)による計算は当初の計画以上に進展しており、膜内のエネルギー輸送の状態を把握するに至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は以下の計画で実施する予定である。 (昨年度からの課題)石けん膜の細線近傍の形状測定:昨年度の固体薄膜の測定値が参照値と大幅に異なった要因に細線近傍の形状測定に問題があったことから、今年度はAFM(原子間力顕微鏡)を用いた測定を行う予定である。 (e)石けん膜の調整技術の確立:測定対象の石けん膜の状態を正確に把握するため、測定中割れにくく厚さが安定した石けん膜を製作するノウハウを蓄積する必要がある。石けん膜の厚さを調節するには界面活性剤と親水性が強いPVA などの合成樹脂やグリセリンなどの高粘度液体を適度に配合する必要があり、これらの配合割合を変化させて安定した石けん膜を作成する技術を確立する。特に任意の厚さのものを再現できるように配合データを蓄積する。 (f)種々の石けん膜に対する測定:正確に膜厚を把握した石けん膜について、熱伝導率・熱拡散率の測定を実施する。 (g)石けん膜に対するDPD シミュレーション:前年度の界面活性剤水溶液に対するDPD 計算を石けん膜のモデルに変更し、石けん膜の分子膜内のエネルギー伝播を解析する。申請者らは従来のDPD 法で膜構造の解析を試み、石けん膜を作り出す解析技術を確立しており、このモデルに内部エネルギーを導入したDPD 法に適用することで石けん膜における分子膜内の熱伝導率を得る。
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Causes of Carryover |
要件を満たすために計画した機器を変更する必要があり、その差額として生じた。次年度は繰り返し実験を行うため、試料や装置部品の消耗品に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)