2018 Fiscal Year Research-status Report
3次元地盤変動モニタリングのためのPS干渉SAR解析と地下逆解析の高度化
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17K14724
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石塚 師也 京都大学, 工学研究科, 助教 (90756470)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地表変動 / 地下水 / 熊本地震 / 圧縮率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に成果が出ている大規模地震後の局所的な地表変動を対象として、PS干渉SAR解析の手法開発および地表変動の地質学的解釈・モデリングを行った。具体的には、2016年熊本地震前後の阿蘇火山の地表変動および熊本平野の地表変動を対象に解析を行った。 阿蘇火山を対象とした解析では、前年度の研究において、カルデラ北西部で年間約7cmの沈下が地震後1年半にかけて発生していることが分かった。前年度はこの変動源位置の推定を等方均質弾性体中の球状圧力源を仮定して行ったが、本年度は圧力源の形状や地下の不均質性を考慮した場合の変動源位置について検討を行った。その結果、圧力源の形状により数100 mの誤差はあるものの、地下浅部の弾性係数の小さい層の存在を考慮することで、より深部に変動源が存在していることが分かった。これにより、マグネトテルリク法で推定された低比抵抗域と一致する可能性が高いことが分かり、深部熱水流動により地表変動が発生していることを示唆した。さらに、従来は1ペアの地表変動のみ考慮して変動源位置の推定を行っていたため、地下物性を一意に決めることができなかったが、地表変動の時間変化を用いることで、変動源位置の推定を行う際、地下物性の範囲を推定できる手法を開発した。 熊本平野の解析では、PS干渉SAR解析で推定された地表変動と現地で観測された地下水位データを統合し、圧縮率および空隙率の空間分布の推定を行った。推定された地下物性は、従来知られている帯水層の地質分布と整合的であり、特に火砕流堆積物で構成される地域と沖積層で構成される地域の物性の違いをよく表すことができた。さらに、熊本平野と台地の境界には、降雨の影響と考えられる季節性地表変動が大きい地域が複数あり、これらの地域では圧縮率が周辺の帯水層より大きいことが本研究により示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究テーマは、衛星SARデータを用いたPS干渉SAR解析を用いた地表変動モニタリング技術の有効性を高めるため、解析手法の高精度化と、地表変動モデリングの高度化を行っている。さらに、実際の地表変動現象に適用し、有効性を検証する。前年度は、PS干渉SAR解析手法の高精度化に着目し、大気中の伝播速度遅延の影響の補正を行うアルゴリズムを開発した。また、2016年熊本地震とその前後の熊本地域周辺の地表変動を推定し、地震後1年半にわたり、局所的な地表変動が山間部や平野部で発生したことを高精度で推定した。当該年度は、地表変動現象のメカニズムの解明に寄与するため、地盤の不均質性が地表変動の解釈に与える影響を考察した。また、地下水位等の原位置データを統合し、地盤物性を推定する手法を開発し、適用を行った。 阿蘇カルデラで発生した地表変動の解析では、地下の弾性定数の不均質性を考慮することで、地下構造と変動源との相関がより明瞭になることを示した。また、地表変動の時間変化を用いることで、変動源位置と地下の弾性定数の不確実性を減らすことができることを示した。この結果は、従来の変動モデリングでは不十分であることを示すとともに、より高精度かつ高頻度・高空間密度の地表変動の推定が、詳細な地表変動モニタリング重要となることを示唆している。 熊本平野での地表変動の解析では、単一の衛星だけではなく、異なる衛星で取得されたデータを利用して、地表変動量の時間分解能の向上を行った。異なる衛星の場合、波長や入射角等の観測条件は異なるが、地形誤差の影響等、同様の誤差要因が含まれており、異なる衛星のデータを用いることで精度が向上できることを示した。また、地表変動と地下水位データから、地盤物性の分布の把握を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの当課題の研究において、PS干渉SAR解析の高精度化および地下物性の不均質性を考慮した地表変動のモデリングを行い、熊本地域に適用を行うことで、有効性と課題を検討した。特に地表変動モデリングについては、地下の力学的特性の不均質性が変動源の解釈に影響することが分かった。また、これまでの1ペアの地表変動推定結果を用いた解析では、地下の不均質性は先験的な地質情報等の外部データから推測を行うことが多かった。しかしながら、PS干渉SAR解析で得られた地表変動には微細な地下物性分布や構造が表れていることが分かり、この微細な地下物性分布を精度よく推定する手法が求められている。そのため、次年度は機械学習を用いて地表変動から地下の力学的物性を推定する手法の開発を発展させる。特にデータ同化や深層ニューラルネットワークを応用することを検討している。
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