2017 Fiscal Year Research-status Report
有形・無形を問わない文化的景観の調査方法とその保護方法の提案
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17K14745
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
神山 藍 東洋大学, 理工学部, 講師 (00598112)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 文化的景観 / 民謡 / 紀行 / 詩歌 / テキストマイニング / 能登 |
Outline of Annual Research Achievements |
奥能登の重要無形民俗文化財として残る「あえのこと」と呼ばれる儀礼,東風を「あいのかぜ」と読む越中の方言,「あいの風」を唄う能登の舟唄,富山県の方で能登から吹く風を「能登アイ」と呼ぶ慣習,富山湾の藍色の海色を「あいがめ」と呼ぶ深海の地形など,先人が育んできた文化や山海の風景を注意深く観察してきた結果が辛うじて地方の言葉として残っている.このように日常の言葉は風景と深い関わりがあるにも関わらず、無形であるため,文化的価値として認め、位置付けることが難しい.現代の社会としては,それも止むを得ない現象と言えるが,風景学の分野においては,これを見過ごすには忍び難い.そこで,本研究では地方に残る言葉を頼りに、風景を再認識し,文化的景観として位置付け、その方法論を提示することを研究の目的とする. 初年度である平成29年度は、文字資料の収集とそのデジタル化、テキスト分析、現地調査により風景用語抽出を行った。 文字資料収集に関しては、下記に記す全ての資料収集を終えた。収集した資料は、以下の通りである。①紀行文および紀行日記:『能登遊記』『能州遊勝』『能登一覧記』『能登浦傳』『能州紀行』『能州日歴』『能登紀行』(7冊)②紀行日記:『能登日記』『三日月の日記』『能登日記』『能北日記』『鶴村日記』(5冊) ③俳書・詩集:『珠洲の海』『能登遊嚢』(3冊)④民謡:227曲ある.この中には,1)祝儀唄,儀礼の唄:(お田植え神事の唄,起舟祝い唄),2)歳時唄:踊り唄,3)生活の唄,4)作業歌:田植唄,田切唄,紙すき唄,糸ひき唄,茶もみ唄,たたら唄,5)名所唄などを含む。 テキスト分析については、現在進行中の資料もあるが、資料の種類によって異なる用語が抽出され、幅広い用語が収集できていると言える。加えて、現在では注視されていない用語も明らかとなり、これらは、風景を再認識する糸口と成り得る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
29年度は、文字資料収集とそのデジタル化および現地調査を行った。 文字資料収集に関しては、下記に記す全ての資料収集を終え、収集した文字資料のデジタル化およびテキスト分析に関しては、一部を残し終了した。俳書を除く、詩集および民謡に関しては、全てのデジタル化作業を終え、テキストマイニングソフトウェアによって、計量的分析を行った。これにより、頻度の高い単語を品詞ごとに150語抽出、抽出語からの、内容が似た文書の群(クラスター分析)、語と語の結びつき(共起ネットワーク分析)を行い、語句の関係性を明らかにした。 紀行文、および紀行日記においては、漢文体あるいは、古体の漢字が用いられている文字資料が多数あり、デジタル化に際し、文字化け等による構文エラーが生じ、デジタル化に遅れが出た。対象とする紀行文の中では最長である『能登遊記』のデジタル化についは終了したが、残りの文献については、30年度も継続して行う。 デジタル化において一部の遅れがある一方で、31年度に予定する空間把握を先行して行った資料もある。 計画当初予定していた現地調査として曳山祭り、キリコ祭り、火祭り、奉燈、鵜祭りなどの年中行事は、天候不良および一部予定調整が困難な時期があったため、30年度も継続して行う。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度は、29年度に引き続き、文献資料のデジタル化および現地調査を継続する。また、29年度に抽出した風景用語の地理的空間把握は、紀行文、俳書・詩集、民謡、絵図・古地図に大別し、用語の地理的特性および比較分析を行う。 紀行文および紀行日記に関しては、旅路,旅程,訪問場所を抽出し,29年度にデジタルテキスト化された言葉に位置属性を加える。これらの作業には、地理情報システム(以下、GIS)ソフトウェア(ArcGIS)を使用する。これにより、どのような場所で、どのような種類の語句が使用されているのかが明らかとなる。出現頻度の高い語句の分布、集積、連続性により、地域における言葉の特性およびその範囲の特定が可能となる。地名に関する旧町名は,『石川県の地名』によって確認し,現代の地図では対応できない場合は、古地図「輯製二十万分一図」を参考に地名の位置および範囲を把握する. 和歌,漢詩,漢文,俳文に関しては,場所の特定が可能なもののみGIS上において位置の特定を行う. 民謡に関しては,河北郡(16曲),羽咋郡(43曲),鹿島郡(56曲),鳳至郡(78曲),珠洲郡(34曲)というようにある程度の地理空間分類が行われているため、この地域分類によってどのような地域の言葉によって唄われているのかについて明らかにする。 紀行文の中には,絵図や挿絵など表現方法よって地域の特色を表しているものがある。このような風景が描かれる場所の多くは,その土地の景観の特性や領域を特定する上で重要である.
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Causes of Carryover |
計画当初予定していた現地調査である曳山祭り(4月)、キリコ祭り、火祭り、奉燈(7-8月)、鵜祭り(12月)の年中行事は、天候不良および本業である教育と学務により、予定調整が困難な時期があったため、旅費に関する使用額の変更が生じた。現地調査に関しては、30年度、研究代表者自身および研究協力者により継続して行う。 また、人件費に関しては、研究対象資料である文献資料の漢文体および古文による読み取り段階において構文エラーが生じたため、その処理に時間を要し、部分的に単純作業であるデジタル化作業にまで及ばなかった資料がある。このため、人件費に関わる使用額が減少した。人件費に関しては、30年度に転用し、作業を進めるとともに、読み取りソフトウェアを追加購入し、作業の効率化を図る。
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