2018 Fiscal Year Research-status Report
有形・無形を問わない文化的景観の調査方法とその保護方法の提案
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17K14745
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
神山 藍 東洋大学, 理工学部, 准教授 (00598112)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 文化的景観 / 紀行文 / 民謡 / 詩歌 / テキストマイニング |
Outline of Annual Research Achievements |
奥能登の重要無形民俗文化財として残る「あえのこと」と呼ばれる儀礼,東風を「あいのかぜ」と読む越中の方言,「あいの風」を唄う能登の舟唄,富山県の方で能登から吹く風を「能登アイ」と呼ぶ慣習,富山湾の藍色の海色を「あいがめ」と呼ぶ深海の地形など,先人が育んできた文化や山海の風景を注意深く観察してきた結果が辛うじて地方の言葉として残っている.このように日常の言葉は風景と深い関わりがあるにも関わらず,無形であるため,文化的価値として認め,位置付けることが難しい.現代の社会としては,それも止むを得ない現象と言えるが,風景学の分野においては,これを見過ごすには忍び難い.そこで,本研究では地方に残る言葉を頼りに,風景を再認識し,文化的景観として位置付け,その方法論を提示することを研究の目的とする. 本研究では地方に残る言葉を頼りに,風景を再認識し,文化的景観として位置付け,その方法論を提示するために,初年度である平成29年度は,文字資料の収集とそのデジタル化,テキスト分析,現地調査により風景用語抽出を行う. 平成30年度には,抽出した風景用語に地理属性を加え,地理空間情報としてデータベース化する.地理空間分析は,文字資料を紀行文,俳書・詩集,民謡,絵図・古地図に大別し,場所の特性を明らかにする.最終年度はとりまとめ研究成果の外部への還元に努める. 以上により,本研究では,有形・無形を問わない文化的景観の調査方法および文化的景観を保護するための方法論を検討し,提案する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
29年度は,文字資料収集とそのデジタル化および現地調査を行った.本年度は,対象とする主な郷土文学資料のデジタル化および地理情報システム(GIS)による空間把握を行った.とりわけ,民謡と詩歌のテキスト分析と空間分析を中心に分析を進めた.この結果,民謡全曲(220曲)を対象とし,テキスト分析を行った結果,能登全域に関わる特徴語の抽出は難しいものの,同様の分析を,河北郡(16曲),羽咋郡(43曲),鹿島郡(56曲),鳳至郡(78曲),珠洲郡(34曲)というように地域を区分してテキスト分析を行うと,地方の特色を表わす特徴語がある程度具体的に把握できることが分かった.抽出した特徴語の関連性を,郷土資料と読み合わせると,歴史的出来事,生業,風習,信仰,気象を表す語が多く,紀行文や名所案内に示す特徴とは異なる能登文化の基層や大衆文化につながる言葉が導出できることが明らかとなった. これとは別に,歌う場所や目的によって分類した柳田國男の分類方法に従って220曲の民謡を分類したところ,田歌,庭歌,祝歌,遊び歌などに関しては,地域的な特徴は現れなかったが,山歌,海歌,業唄,道唄に関しては,分布の法則性があることが明らかとなり,民謡は地域の文化的景観を位置づける上で有益な資料となりうると言える. 一方で,詩歌に関しては,テキスト分析により,一定の特徴語を抽出できるが,空間的に地域に共通する特徴語導出するには限界があると言える.ただし,詩歌によっては,詩歌自体あるいは,詩歌に詠まれる語句が,民謡のそれとは異なり,言語芸術として認められ,これが,上層文化や地域の固有の性質として広く享受される特徴があり,民謡とは異なる種類の表現や特性を認識する上で貴重であると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
31年度は,30年度に引き続き,抽出した風景用語のテキスト分析および地理的空間把握を行う.紀行文,俳書・詩集,民謡,絵図・古地図のうち,残る紀行文の用語の地理的特性および比較分析を行う. 紀行文および紀行日記に関しては,旅路,旅程,訪問場所を抽出し,前年度にデジタルテキスト化された言葉に位置属性を加える.これらの作業には,地理情報システムソフトウェア(ArcGIS)を使用する.これにより,どのような場所で,どのような種類の語句が使用されているのかが明らかとなる.出現頻度の高い語句の分布,集積,連続性により,地域における言葉の特性およびその分布を明らかにする. 民謡に関しては,抽出した語句を,地域の文化的景観特性として位置づけ,論文発表を行う. 最後に,研究のとりまとめを行い,得られた成果の執筆作業を行う.
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Causes of Carryover |
研究対象文献のテキスト分析を進める際に,予想以上に,古文,旧漢字,仮名遣いなどによる読み込みエラーが生じ,デジタル化作業において,計画より大幅な遅れが生じた.このため,学会発表および論文執筆を本年度に延期したため,予算の使用計画に変更が生じた.よって,次年度に学会発表のための交通費ならびに論文発表のための投稿費を、次年度に使用することを計画する.
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