2017 Fiscal Year Research-status Report
ナノバブルの適用による薬品が不要な膜ろ過浄水処理プロセスの開発研究
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17K14748
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 崇史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80735712)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナノバブル / ウルトラファインバブル / 膜ろ過 / 膜ファウリング / 洗浄 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノバブル(NBs)の膜ろ過浄水処理プロセスへの適用を目指し、H29年度はNBsの膜ろ過プロセスにおける挙動、ろ過性への影響、ファウリング低減効果、またNBsによるファウリングした膜の洗浄効果、を実験的に評価した。 細孔径がNBsより小さい分画分子量100,000のポリエーテルスルホン(PES)製限外ろ過膜、及び同じ分画分子量で親水性のセラミック限外ろ過膜を用いて平均気泡径約100 nmのNBsをろ過したところ、透水能が低下したことから、NBsが膜面に蓄積することでろ過の抵抗となることが明らかになった。特にPES膜では透水能の低下が20%程度であったのに対して、セラミック膜では60%ほど低下したことから、異なる膜素材ではNBsとの相互作用が異なり、膜面への蓄積状況が変化することが示唆された。ろ過原水のpHを酸性側(pH1.6)にしたところ、セラミック膜での透水性の低下が30%程度まで軽減されたことから、NBsと膜との相互作用として静電的相互作用が卓越することが明らかとなった。 分子量約70,000のウシ血清アルブミン(BSA)をサロゲートファウリング物質として用いたPES膜での膜ろ過試験ではNBs添加によるファウリング低減効果は見られなかった。PES膜ではNBsの膜面への吸着が少ないため、原水中のBSAが膜に直接作用したことによると考えられる。 BSAによりファウリングしたPES膜およびセラミック膜をNBsを含む溶液に浸漬し、洗浄効果を調べたところ、ともに浸漬洗浄の効果は見られなかった。NBsによる膜面の効果的な洗浄には水流などと組み合わせる必要性が示唆された。 ファウリング物質のサロゲートであるBSAとNBsとの相互作用についてはNBsとBSAは反発により吸着しにくい関係にある、またはBSAのNBsへの吸着は単層であり、気泡径に影響しない可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度はナノバブル(NBs)を膜ろ過プロセスへ適用した際の挙動やろ過性への影響、洗浄効果について実験により基礎的な知見を得た. 膜ろ過においてNBsが膜面へ堆積・吸着することでろ過の抵抗となり、ろ過性が低下することが明らかになった。一方で、ろ過性の低下影響は膜素材によって異なり、NBsと膜素材との静電的相互作用に支配されていることが示され、NBsの膜ろ過プロセスへの応用において、pH を変化させるなど膜素材との静電的相互作用を制御できることが明らかになった。これはNBsを適用したプロセスの設計にとって重要な知見であり、平成30年度の研究目的であるプロセス提案に活用していく。 一方で、原水中の成分との相互作用については、BSAとNBsとの相互作用を気泡径の変化から調査したが、当初計画していた比重の違いを利用したNBsおよびNBs吸着画分の分離による相互作用の評価ついては未着手である。これは平成30年度に予定していた膜ろ過におけるNBsの挙動、膜ファウリングへの影響の解明を前倒しで実施したためであり、遅れではなく実施順序の変更によるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に得られた結果を受け、1)ナノバブルと原水中成分との相互作用の解明に向けて、BSA以外の多糖類やフミン物質などのファウリング物質サロゲートを対象に、NBsとの凝集性を含む相互作用を、気泡径の変化、また混合することによるサロゲート物質のバルクから気泡表面への吸着をバルクと気泡画分とを分離することにより捉えていく。 2)膜ろ過におけるナノバブルの挙動、膜ろ過性・膜ファウリングへの影響の解明については、膜素材との静電的相互作用が膜ろ過性へ影響することが明らかになったことから、溶媒のpHを変化させるなど、NBsと膜との相互作用の具体的な制御方法につながる条件を実験的に収集していく。またNBsによるファウリングの低減効果については、BSA以外の多糖類やフミン質などを対象に相互作用と共に調べていく予定である。膜素材とNBsとの相互作用が引力の場合、膜面へのNBsの堆積や吸着によりろ過抵抗が大きくなる一方で、その膜表面にはNBsが堆積、吸着していると考えられることから、この膜面近傍のNBs層を利用し、ファウリングの低減効果を実験的に検討する。膜面にNBsをコーティングした状態でファウリング物質をろ過し、ろ過性、ファウリング物質の膜への吸着等の変化を調べる。 3)ナノバブルを用いた膜ろ過処理プロセスの提案については、1)、2)で得られた知見をもとに、処理プロセスにおけるpH制御、洗浄条件や頻度などの運転制御方法を具体化し、小型膜ろ過実験装置を用いた連続運転試験により検証していく。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していたナノバブル生成装置(約250万円)で生成される気泡の濃度が実験で必要とされる濃度よりも低いことが明らかとなったため、要件を満たすより濃度の高いナノバブルが生成可能な装置を検討したが、予算をオーバーしていた(約400万円)ため、装置購入ではなく、同仕様の装置で生成された高濃度のナノバブルを含むナノバブル水を購入することで、計画していた実験を実施することに変更した。 平成29年度末により低価格(約80万円)で同程度に高濃度のナノバブル水が生成可能な装置が新たに開発されたことから平成30年度はその装置を購入して実験を実施する予定である。
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