2017 Fiscal Year Research-status Report
水棲型嗅覚受容体巨大遺伝子クラスターを支配する発現制御領域の解析
Project/Area Number |
17K14932
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
岩田 哲郎 東京工業大学, 技術部, 技術職員 (30771563)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 嗅覚受容体 / 遺伝子クラスター / 遺伝子発現制御 / 発現制御領域 / 長距離エンハンサー / シスエレメント |
Outline of Annual Research Achievements |
マウスゲノム最大の遺伝子ファミリーを形成する嗅覚受容体は、系統学的に、魚類まで保存されたファミリーを含むClass I(水棲型)と、陸棲生物特異的なClass II(陸棲型)に分類される。Class II 遺伝子がほぼすべての染色体上に散在しているのに対して、Class I遺伝子は約3Mbの単一の巨大遺伝子クラスターを形成する特徴的なファミリーである。嗅神経細胞における「1細胞1受容体」ルールから、Class I 遺伝子クラスターを支配する共通の発現制御領域の存在が推定されているが、同定には至っていなかった。本研究課題では、発現制御領域を同定し、さらにその機能を明らかにすることで、他に類を見ない巨大遺伝子クラスターを形成するClass I 嗅覚受容体遺伝子の発現制御機構を解明することを目的とする。 当該年度までに研究代表者らは、塩基配列の保存性を基にした情報学的解析と種々のトランスジェニックマウスによる解析から、新たな発現制御領域「Jエレメント」を同定した。ゲノム編集技術(CRISPR-Cas9)を用いて作出したJエレメント欠失マウスを用いて、DNAマイクロアレイ解析やin situ hybridization法による遺伝子発現解析により、JエレメントがClass I 嗅覚受容体遺伝子クラスター全体に作用する、長距離作用性エンハンサーであることを明らかにした。また、Jエレメントの機能解析から、嗅覚受容体遺伝子の発現メカニズムについてエンハンサーの選択が先行するというモデルを提案した。得られた成果は、国際科学雑誌への論文投稿、プレスリリースおよび学会において発表した。今後は、Class I 遺伝子発現制御機構の全容解明を目指し、計画を継続する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では(1)Class I 嗅覚受容体発現制御領域の同定、(2)発現制御領域の機能解析、(3)転写因子によるClass I 嗅覚受容体遺伝子発現への寄与、の3つの小課題を計画している。本年度までに、先行研究から発現制御領域として着目していた配列について、マウストランスジェネシスによる種々のレポーターアッセイと情報学的解析を実施することにより、初めてClass I遺伝子の発現制御領域を同定した。作出したノックアウトマウスの解析から、JエレメントがClass I 遺伝子のエンハンサーとして機能していることを見出し、一連の成果を発表することができた。また、Jエレメントの制御に関わることが予想された転写因子の嗅覚系特異的欠損マウスを作出し、その解析にも取り掛かっている。以上より、本年度においては当初の計画以上に進展していると判断される。 一方で、Class I 嗅覚受容体遺伝子クラスターは少なくとも数個のエンハンサーによって制御されていることが明らかとなったため、Class I 嗅覚受容体遺伝子発現制御機構の全容解明に向けて、他のエンハンサー領域の同定が新たな課題となった。そこで、Jエレメント以外のClass I 遺伝子エンハンサーについても候補を探索し、見出した配列についてはノックアウトマウスの作出と解析を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今回同定したJエレメント内には、種間で高度に保存されたモチーフ配列がいくつか存在している。主にこれらに着目して、トランスジェニックマウスを用いたレポーターアッセイにより、Jエレメントの機能解析を進めていく予定である。他方、これまでの想定に反して、Class I 嗅覚受容体遺伝子クラスターには複数の発現制御領域が存在することが明らかとなった。現在までに、Jエレメント以外のエンハンサー領域についても探索を試み、候補領域についてノックアウトマウスの作製と解析に取り掛かっている。着目した転写因子の嗅覚系特異的な遺伝子欠失マウスについては、主にClass I 嗅覚受容体遺伝子の発現に着目して解析を進める。特に、作出した各ノックアウトマウスの遺伝子発現解析については、全嗅覚受容体遺伝子への影響を調べるため適宜網羅解析を実施する予定である。以上の解析を通して、Class I 嗅覚受容体遺伝子クラスターの発現制御機構の全容解明を目指す。
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Causes of Carryover |
作出する遺伝子改変マウスについて、遺伝子発現変化を調べるため網羅解析を計画していたが、本年度は別の遺伝子改変マウスの作出と新たな解析対象の探索を実施したため、次年度にまとめて実施することとした。
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Remarks |
科学新聞(2017年11月3日付)
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