2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K14950
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 真弓 京都大学, 生命科学研究科, 特定助教 (50583457)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ニューロン新生 / 神経幹細胞 / RNAシークエンス / 海馬歯状回 / 側脳室周囲 / 遺伝子発現プロファイル / FACS / 光作動性転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢神経系において、神経細胞(ニューロン)は胎生期から出生後のしばらくの時期にのみ、神経幹細胞から生み出されると考えられてきた。しかし、最近の研究によって、ヒトを含めたほ乳類の成体脳においても、側脳室周囲の脳室下帯や海馬歯状回といった特定の領域では神経幹細胞が存在し、ニューロン新生が継続していることが分かってきた。 本研究課題では、さまざまなステージにおいて、脳内の神経幹細胞の増殖や分化を制御する分子実体を明らかにするため、マウスの胎児脳、生後脳、成体脳を用いて、大規模なRNAシークエンスを行い、遺伝子発現プロファイルを実施した。具体的には、神経幹細胞を蛍光タンパク質で標識するトランスジェニックマウスを作製して、FACSによりマウス脳内から神経幹細胞を採取し、これらの細胞を用いてRNAシークエンスを行なった。次にこれらの結果から、発生・発達・加齢に伴う遺伝子発現の変動を解析した。データベースや論文の情報を加味し、特に成体期において加齢に伴い増加あるいは減少する遺伝子の中で、ニューロン新生に関与し得るものを選択した。さらに、これらの抽出した遺伝子の機能解析を行うために、新規に光遺伝学ツールの開発を実施した。また、高純度かつ高いタイターのレンチウイルスやアデノ随伴ウイルス(AAV)を作製するプロトコールを確立し、マウス脳内にインジェクションすることによって、目的の遺伝子の強制発現を可能にした。 さらに、開発した光遺伝学ツールと培養神経幹細胞を用いて、培養細胞レベルにおける遺伝子発現プロファイルを実施中である。神経幹細胞が増殖あるいはニューロンへと分化する過程において、転写因子やその下流因子の発現動態を解析する予定である。 これらの解析を通して、神経幹細胞の増殖や分化制御メカニズムを明らかにし、アルツハイマーなどの神経疾患の脳機能改善に貢献できればと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、神経幹細胞を標識する遺伝子改変マウスを作製し、さまざまなステージのマウス脳から、FACSにより神経幹細胞を採取し、これらの細胞を用いてRNAシークエンスを実施した。次に、発生・発達・加齢に伴う神経幹細胞の遺伝子発現の変動を解析した。発現変動の大きい遺伝子を抽出し、既存データベースや文献と比較して、ニューロン新生に関与し得る遺伝子の候補を選択した。さらに、これらの遺伝子の機能解析を行うために、新規に光作動性転写因子の開発に取り組んだ。これまで主に酵母細胞を用いて開発されてきた光作動性モジュールとTetシステムを組み合わせ、ヒト由来のHEK293T細胞を用いて大規模なスクリーニングを実施し、新規に光作動性Tetシステムの開発に成功した。この手法と培養神経幹細胞を組み合わせて、光照射により神経幹細胞の増殖、ニューロン分化を誘導し、これらの細胞を用いてRNAシークエンスを実施した。神経幹細胞の増殖・分化メカニズム解明のため、in vitroレベルとin vivoレベルの解析を並行して実施できている。そのため、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、マウスの胎生期から成体期までのさまざまなステージにおいて、神経幹細胞の大規模な遺伝子発現プロファイルを実施することができた。各ステージにおける遺伝子発現を比較し、発現変動が大きい遺伝子の中から、特に成体脳においてニューロン新生に関与し得る遺伝子の候補を選択することができた。さらに、既存のデータベース等も活用し、in situ hybridization等の結果から、それぞれの発現部位を確認し、さらに候補遺伝子を絞ることができた。今後は、候補遺伝子を発現するレンチウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作製して機能解析を実施する予定である。まずは、培養神経幹細胞や初代培養神経細胞などを用いて、候補遺伝子の機能解析を行う。さらに、海馬歯状回にウイルスをインジェクションし、in vivoレベルにおいて機能解析を行う予定である。また、光作動性Tetシステムの開発に成功したため、この手法を用いて、培養細胞レベルや生体レベルで目的遺伝子の発現を光制御して機能解析を行う。これらの解析を通じて、発生・発達・加齢に伴い、どのようにして神経幹細胞の増殖や分化が制御されているのかを明らかにする。将来的には、アルツハイマーなどの神経疾患の脳機能改善に貢献できればと考えている。
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Causes of Carryover |
本研究課題では、RNAシークエンス解析で得られた遺伝子の機能解析を実施するために、新規の光遺伝学ツールの開発を行ったが、予定よりも早期に開発に成功した。そのため、本年度の助成金の残金は、次年度において、RNAシークエンス解析で得られた複数の遺伝子の機能解析に活用する予定である。具体的には、レンチウイルスやアデノ随伴ウイルスを作製するためのトランスフェクション試薬、ウイルス精製試薬、または、マウスの購入に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)