2017 Fiscal Year Research-status Report
梨状皮質興奮性ニューロンの軸索分枝:ウイルスベクターを用いた単一細胞標識
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17K14953
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
中村 悠 川崎医科大学, 医学部, 助教 (70535484)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 梨状皮質 / シンドビスウイルス / ウイルスベクター / 逆行性トレーサー / 嗅球 / 嗅覚 / 投射様式 / 軸索分岐 |
Outline of Annual Research Achievements |
梨状皮質は嗅球で処理された匂い情報を受け取り、様々な脳領域へ伝達する。梨状皮質内には樹状突起の形状が異なる複数の投射ニューロンが存在しているが、各ニューロンの投射様式はよく分かっていない。近年開発が進められているウイルスベクターは、少数のニューロンを選択的に標識することが可能であり、脳内の多くの部位で新しい知見が報告されている。特に、シンドビスウイルスベクターは、発現力が非常に強いプロモーターを有しているため、従来の順行性トレーサーよりも短時間でニューロンを標識することができる。また、膜移行シグナルを付加した蛍光タンパク質を発現させることにより、標識ニューロンをゴルジ染色用に隅々まで可視化することが可能になった。本申請課題では、このシンドビスウイルスベクターを用いて梨状皮質の投射ニューロンを標識し、樹状突起の形態と軸索分岐様式の関係性を明らかにする。 その一方で、嗅覚系伝導経路の理解を目指すにあたり、これら梨状皮質ニューロンがどのような情報を受け取るのか、という問題の重要性にも着目した。嗅球出力細胞の投射様式については、近年明らかにされたが、嗅球以外の脳領域から梨状皮質への入力様式についてはまだ十分に解析されていないのが現状である。そこで、梨状皮質内に逆行性トレーサーを注入する実験を申請課題と並行して行い、標識された細胞の分布を解析した。興味深い所見が得られた領域については、今後、シンドビスウイルスベクターによる順行性標識を行い、梨状皮質内における軸索分岐を確認していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本申請課題の目的は、嗅覚情報処理に関わる脳内の神経回路網を明らかにすることである。当初は梨状皮質の投射ニューロンを標識し、その軸索分岐を解析するというアプローチを中心に課題を遂行する予定であったが、梨状皮質のニューロンが受け取る情報の重要性も考慮に入れて研究を進めた。梨状皮質へ逆行性トレーサーを注入し、標識された神経細胞の脳内分布を解析した結果、興味深い所見が得られたため、現在は梨状皮質への入力様式の解析を優先している。また、当該年度は、逆行性標識細胞の染色条件や解析方法等の検討に想定以上の時間を要した。これらの理由により、研究計画に変更及び遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は梨状皮質への入力様式を優先して解析した後に、梨状皮質からの投射様式について本格的に研究を進める予定である。梨状皮質への逆行性トレーサーの注入に関しては、再現性を得るためにさらなる所見が必要である。そのため、より効率的に微量電気注入を行えるように、あらたにイオントフォレシスポンプを購入した。また、神経細胞の逆行性標識に加えて、シンドビスウイルスベクターによる順行性標識を行い、梨状皮質への投射様式を解析していく予定である。脳の領域、神経細胞種により、ウイルスベクターの感染性が異なるため、ウイルス溶液の濃度や注入量を適切に設定する必要がある。その実験手順は以下の通りである。 1. マウス(10週齢、C57BL/6J)を麻酔下で脳定位装置に固定し、シンドビスウイルスベクターの希釈液を空気圧により脳内へ注入する。2.灌流固定したマウスから脳を摘出し、凍結切片を作製する。3.蛍光顕微鏡下で感染細胞の樹状突起や細胞体を観察する。4.免疫組織化学染色法により、投射ニューロンの軸索線維を可視化する。 ウイルスベクターを注入する際には、毎回の注入量を極力一定にするため、圧注入法を用いる。まず、実験手順1-3により、ウイルス濃度・注入量を調節し、当該領域で数個だけ感染するような注入条件を設定する。次に、手順4において抗体濃度、染色時間、シグナル増感法について検討を行い、軸索線維の隅々まで可視化されるような染色条件を設定する。この一連の条件検討の一部は、梨状皮質ニューロンを標識する際にも適用できる。梨状皮質への入力様式の解析が進んだ後、当初の目的であった、梨状皮質からの投射様式の研究へ速やかに移行する予定である。
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Causes of Carryover |
高次嗅覚中枢における神経回路網の理解を目指すにあたり、梨状皮質への神経入力様式や、梨状皮質ニューロンの投射様式を明らかにすることが不可欠である。当該年度は、梨状皮質へ投射するニューロンの逆行性標識を行った際の、染色条件や解析方法の検討に時間を費やしたため、研究計画に遅れが生じ、次年度使用額が生じた。 次年度は梨状皮質の入出力様式について、当初予定していたシンドビスウイルスベクターを用いて解析を進める。次年度使用額は30年度交付額と合わせ、ウイルスベクターの脳内注入実験や、感染細胞の可視化に必要な試薬等の消耗品、また、実験を効率化するための機器等に使用する予定である。
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