2017 Fiscal Year Research-status Report
脳内神経細胞特異的トランスクリプトーム解析から挑むプリオン病の神経変性機構の解明
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17K14954
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山崎 剛士 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (70709881)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 神経変性疾患 / プリオン病 / トランスクリプトーム / 神経細胞死 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経変性疾患の治療法の開発には、異常タンパクの増殖に起因する神経変性機構の解明が最重要課題である。プリオン病では、異常型プリオンタンパク質 (PrPSc) が脳内の神経細胞で増殖して神経変性を引き起こす。本研究では、プリオン感染マウスモデルにおいて、神経変性過程にある脳内神経細胞の遺伝子発現プロファイルを解明することを足掛かりとして、プリオン病の神経変性機構の分子基盤を解明する。 PrPScの増殖と神経細胞死との関連を明確にするため、PrPScが蓄積する脳領域と神経細胞の脱落が起こる脳領域を解析した。PrPScは臨床症状期には既に脳全体に伝播していたが、神経細胞の脱落は特定の脳領域に限局して起こることが分かった。PrPScが増殖している神経細胞を詳細に解析するため、感染マウスの脳から神経細胞を分離し、PrPSc陽性神経細胞をフローサイトメトリーで解析した結果、神経細胞の80%以上にPrPScが存在することが明らかになった。これらの結果は、PrPScの増殖が直接的な原因となって神経細胞死が起こるのではなく、PrPScの増殖に加えて何らかの誘因が加わることで神経細胞死が起こることを示している。 神経細胞死を惹起する因子の同定のため、神経細胞の脱落が顕著な視床領域のトランスクリプトームを解析した。神経細胞特異的な細胞応答を捉えるため、グリア細胞が発現する遺伝子以外について解析を進めたところ、神経細胞での小胞体ストレス応答・酸化ストレス応答の活性化を示唆する結果を得た。特に、ストレス応答性の転写調節因子であるATF3を中心として、CHOPやCHAC1, Caspase 7など、アポトーシス誘発に関与する遺伝子の発現が上昇した。以上の結果から、プリオン病では、PrPSc増殖に加えて、ATF3を中心としたシグナル伝達経路が活性化することで神経細胞死が起こる、という仮説が立てられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画では、プリオン感染マウスの脳からPrPSc陽性神経細胞を分取し、次世代シーケンサーを用いたRNA-seq法によりトランスクリプトームを解析することで、神経変性過程で活性化する神経細胞内シグナル伝達経路を予測する予定であった。神経細胞とグリア細胞、PrPScをそれぞれ免疫染色し、PrPSc陽性神経細胞をセルソーターを用いて分取することに成功したが、分取収率、RNA抽出効率の低さにより、本サンプルを用いたトランスクリプトーム解析は難航している。そこで、アプローチを変更して、PrPScの蓄積と神経細胞の脱落が顕著な視床領域のトランスクリプトームを解析した。申請者らがこれまで解析してきたミクログリア・アストロサイトのトランスクリプトームデータを用いて、グリア細胞が発現する遺伝子以外について解析を進めたところ、実際に神経細胞死が起こる脳領域での神経細胞特異的な遺伝子発現プロファイルが明らかになった。 トランスクリプトーム解析により、神経細胞でストレス応答性転写調節因子ATF3を中心としたシグナル伝達経路が活性化することを示唆する結果を得た。当初の計画通り、このシグナル伝達経路の上流因子について探索したところ、ミクログリアの産生する活性酸素種による酸化ストレスが神経細胞でのATF3の発現と細胞死を誘導することが予測された。そこで、酸化ストレス誘導の一例として、脂質の過酸化により産生される代謝産物4-hydroxy-2-nonenalをプリオン感染神経細胞、非感染神経細胞に添加したところ、感染神経細胞にのみ変性効果が認められた。現在、酸化ストレスがATF3の発現誘導を介して神経細胞死を惹起するのではないかと考え、初代培養神経細胞を用いた解析を進めている。 以上の経過から、当初の計画通りの方法ではないが、目標は達成できており、計画に準じた研究を展開できていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
セルソーターで分取したPrPSc陽性神経細胞のトランスクリプトーム解析のため、超微量RNAからRNA-seq用のcDNAライブラリを調整する方法を検討する。PrPScが増殖している脳内神経細胞の遺伝子発現プロファイルを解析することで、PrPSc増殖に対する神経細胞の細胞応答の詳細を明らかする。 本年度の研究で、ATF3の発現誘導が神経細胞死を惹起する可能性が示唆された。ATF3は小胞体ストレス応答の中でもPERK-eIF2α経路の下流因子として知られている。小胞体ストレス、酸化ストレス、神経過興奮、炎症などの種々のストレスが刺激となり、PERK-eIF2α経路が活性化すると、転写調節因子ATF4の翻訳が亢進し、ATF4がATF3の発現を誘導した結果、ATF3の標的遺伝子の転写調節が起こる。この度、ATF3の発現を誘導することが報告されている過酸化脂質代謝産物4-hydroxy-2-nonenalの添加により、プリオン感染初代培養神経細胞での細胞変性効果が認められた。より詳細な細胞内シグナルを明らかにするため、本細胞モデルを用いてPERK-eIF2α経路関連分子の活性化を解析する。また、PERK-eIF2α経路の阻害薬GSK2606414を用いた阻害試験、あるいはレンチウイルスベクターを用いたATF4, ATF3の遺伝子サイレンシングにより、細胞変性効果が抑制されるかを解析する。さらに、ATF3発現と神経細胞死の因果関係を明らかにするため、プリオン感染神経細胞にレンチウイルスベクターを用いてATF3を過発現することで、神経細胞死が誘導されるか否かを検証する。また、ATF3過発現あるいはATF3に対するshRNAを搭載したレンチウイルスベクターをプリオン感染マウスの脳に投与し、ATF3の発現と神経細胞死の因果関係についてin vivo実験系を用いて解析を進める。
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Causes of Carryover |
直接経費の使用に関しては計画通り進めている。物品購入等の関係上、使用額に端数が生じたため、348円を次年度に使用することとした。
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Research Products
(2 results)