2017 Fiscal Year Research-status Report
てんかん原因リガンド/受容体が担うシナプス伝達制御機構の解明
Project/Area Number |
17K14969
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
横井 紀彦 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 助教 (50710969)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | シナプス伝達 / てんかん / 蛋白質複合体 / トランスシナプス / 結晶構造 / ナノドメイン/ナノカラム |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶等の脳高次機能は神経細胞間のシナプス伝達によって担われている。しかし、シナプス伝達が制御されず、過度に引き起こされると、脳が過剰興奮状態になり、てんかん等の脳神経疾患が引き起こされると考えられている。神経分泌蛋白質LGI1の変異がある種の家族性てんかんを引き起こすことが知られており、LGI1が脳の興奮制御の重要な役割を担うことが示されている。我々はこれまでに、LGI1変異体蛋白質によるてんかん分子病態を調べることで、LGI1の生理機能の解明を進めてきた。具体的には、LGI1変異体を発現するてんかんモデルマウスを作成し、そのマウス脳内でのLGI1の性状調査を生化学的、免疫組織化学的に行った。そして、あるLGI1変異体は分泌不全であること、また別の変異体は受容体であるADAM22と結合不全であることを見出し、LGI1-ADAM22結合が脳機能に必要不可欠であることを報告した(Yokoi et al, Nat Med 2015)。一方、我々は最近、LGI1てんかん関連変異体の中から、野生型LGI1と同等にADAM22と結合するArg474Gln変異体を見出し、別のLGI1機能不全の手がかりを得ていた。平成29年度はこのR474Q変異体を発現するてんかんモデルマウスを解析し、Arg474Gln変異によって、LGI1の2量体間の結合が形成不全となることを見出した(Yamagata, Miyazaki, Yokoi et al, Nat Commun 2018)。この結果は新たなてんかんの分子病態を明らかにしたものであり、LGI1-LGI1結合が新たなてんかん治療の標的になると期待される。また、このLGI1-LGI1結合がシナプス間隙で形成されると考えられることから、LGI1がプレシナプスとポストシナプスを繋ぐトランスシナプス蛋白質複合体の形成に重要な役割を担うことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
我々はこれまでに、LGI1の変異体によるてんかん分子病態を調べ、LGI1の生理機能を明らかにすることで脳の根本的な興奮制御機構の解明を進めてきた。本年度はLGI1のヒトてんかん原因Arg474Gln変異がこれまでの知見とは異なり、LGI1の2量体間の結合を阻害することを見出した。この変異箇所と複合体形成の関係は、東京大学の深井准教授との共同研究で明らかとなったLGI1-ADAM22複合体の結晶構造からも裏付けされた。この結晶構造はLGI1-ADAM22複合体が前シナプスと後シナプスを繋ぐことを示唆しており、Arg474Gln変異体の結果と合わせて、LGI1-LGI1結合を介して形成されるトランスシナプス型の蛋白質複合体形成が脳機能に極めて重要であることが示された。本研究成果はNature Communications誌に採択される等、当該領域を超えて高いインパクトを与えており、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
LGI1-ADAM22複合体がどのようにシナプス伝達を制御しているのかを明らかにするために、LGI1-ADAM22を含む脳内蛋白質複合体の全容を明らかにする。具体的にはマウス脳内のLGI1-ADAM22を含む蛋白質複合体を精製し、構成蛋白質を質量分析等で同定する。その際、蛋白質可溶化や精製に使用するバッファー、界面活性剤等の条件を検討する。一方、ADAM22の細胞内領域がシナプス伝達にどのように関わっているのかを明らかにするために、ADAM22細胞内領域のリン酸化等の翻訳後修飾の役割を明らかにする。それら翻訳後修飾がADAM22の生合成過程や蛋白質複合体形成へどのような影響を与えるかを生化学的、細胞生物学的に明らかにする。また、シナプス伝達や脳機能にADAM22翻訳後修飾がどのような影響を与えるかを、遺伝子改変マウスを用いた動物行動解析実験等で明らかにしていく。
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