2017 Fiscal Year Research-status Report
がん抑制タンパクp53のヌクレオソーム認識機構の解明
Project/Area Number |
17K15043
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
有村 泰宏 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (80754697)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | クロマチン / ヌクレオーム / p53 / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、がん抑制転写因子p53がヌクレオソーム中の標的DNA配列を認識し、結合するメカニズムを解明することである。p53はヌクレオソーム中の標的DNA配列を認識可能であるという性質を有するために、ヌクレオソーム形成の有無に影響されずに機能し、それ故に、がん抑制遺伝子発現制御の最上流の転写因子として働く。しかし、なぜp53は他の転写因子と異なり、ヌクレオソーム中のDNA配列を認識可能なのかは理解されていない。申請者は、既にp53にヌクレオソーム結合を可能にする未知のドメインが存在することを発見している。こうした知見を活かし、本研究では、p53のヌクレオソーム結合メカニズムを生化学的・構造生物的解析によって解明する。 p53がヌクレオソーム中の標的DNA配列を認識して結合するメカニズムを解明するため、生化学的解析と立体構造解析の2つのアプローチを併用して進めた。生化学的解析では、p53 N末端側のアミノ酸領域(1-93)に含まれる、ヌクレオソーム結合を可能にするドメインの絞り込みと、このドメインと直接相互作用するヌクレオソーム中の領域の同定を目指して生化学解析を行った。この解析の過程で、p53のN末端側にヒストンH3-H4を結合するドメインが存在することを見出し、この結合を担うドメインを20アミノ酸の領域にまで絞り込んだ。立体構造解析のためには、ヌクレオソームの結晶にヒストン結合を担うペプチドを浸潤させて、X線結晶構造解析データを取得した。加えて、Cryo-電子顕微鏡を用いた単粒子解析を目指して、Cryo-電子顕微鏡を用いた予備実験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究において、精製したH3-H4複合体及び、p53の断片を用いて、生化学解析をおこない、p53のN末端側にヒストンH3-H4を結合するドメインが存在することを見出した。さらに、p53とH3-H4結合を担うドメインを、p53のN末端に存在する20アミノ酸の領域にまで絞り込んだ。このp53とヒストンH3-H4の結合は、p53による転写活性化メカニズムにおいて重要な機能を有すると考えられ、p53を介した転写活性化メカニズムの解明に大きく貢献する成果である。さらに、構造解析に向けたサンプル調製及び予備実験も順調に進行している。また、平成29年度の成果によって、p53とヒストンの直接相互作用が見出されたので、p53がヒストンの翻訳後修飾や、ヒストンバリアントといった、ヒストン上にコードされるエピゲノム情報を直接認識する可能性や、がん細胞において、多く発現するヒストンの変異がp53とヒストンの相互作用に影響する可能性など、p53を介した転写活性化メカニズムの新たな仮説が想起された。これらの状況を鑑みて、予想以上の進展があったと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究において、p53がヒストンH3-H4結合することを明らかにし、この結合を担うドメインを20アミノ酸の領域にまで絞り込むことに成功した。平成30年度には、p53とH3-H4の結合が、p53の転写活性化においてどのような役割を果たすのか生化学的解析、細胞生物学的解析を並行して行い、明らかにする。また、平成29年度にp53内の、どの領域がヒストンと結合するのかを明らかにしたので、平成30年度においては、ヒストン内のどの領域がp53と結合するのかを生化学的解析によって明らかにする。加えて、平成29年度の成果によって、p53とヒストンの直接相互作用が見出されたので、p53がヒストンの翻訳後修飾や、ヒストンバリアントといった、ヒストン上にコードされるエピゲノム情報を直接認識する可能性や、がん細胞において、多く発現するヒストンの変異がp53とヒストンの相互作用に影響する可能性など、p53を介した転写活性化メカニズムの新たな仮説が想起された。これらの仮説についても生化学的手法を用いて解析を行う。さらに、平成29年度に引き続き、X線結晶構造解析、Cryo-電子顕微鏡解析によって、p53がヌクレオソームに結合するメカニズムを明らかにすることを目指す。
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