2017 Fiscal Year Research-status Report
過渡的複合体に着目したヘムリレー輸送の分子機構の解明
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17K15081
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
村木 則文 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (20723828)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヘム / タンパク質複合体 / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ヘムリレー輸送の分子機構を解明するために、ヘム取り込み系を構成するタンパク質の過渡的複合体の結晶構造解析を目指している。 グラム陽性高GC細菌のヘム取り込み系タンパク質HtaAとHtaBは組換え発現系で調製するとヘム結合型として得られる。輸送経路の解明のためには、ヘムを結合していないアポ型タンパク質が必要である。そこで、ヘムに軸配位子を提供するTyrと水素結合を形成するHisに着目した。HisをAlaに置換した変異タンパク質を調製したところ、組換え大腸菌体内でヘムを結合することなくアポ型のHtaA/HtaBを調製することができた。これら変異タンパク質にヘム滴定を行ったところ、1:1でヘムを結合することがわかった。野生型と同様にヘムはTyrを軸配位子とすることから、ヘムの結合ポケットは保持されていると考えられる。これら変異型タンパク質の結晶化スクリーニングを行ったところ、HtaAのC末端ドメインにおいてヘム結合型とアポ型のそれぞれの結晶を得ることに成功した。構造解析の結果、ヘム結合型His変異タンパク質は変異箇所を除けば野生型と非常によく一致した。一方、アポ型His変異タンパク質はN末端がドメインスワップすることによって二量体を形成していた。この二量体はヘム結合ポケットを大きく開き、向かい合わせに配置していたことから、ヘムリレー輸送の過渡的複合体をミミックしていると考えた。そこで、二量体の一方をヘム結合型タンパク質に置き換えてヘムドナー・ヘムアクセプター複合体モデルを作成した。このモデルでは、ヘムアクセプター側のヘム認識に関わるヘリックスα1がヘムドナーのヘム結合ポケットに近接しており、ヘム輸送においてドメインスワップのような大きな構造変化を伴う可能性を指摘できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グラム陽性高GC細菌のヘム取り込み系の研究は順調に進んでいる。ヘムリレー輸送複合体の輸送反応の解析にはアポ型タンパク質が必要であり、変異導入によって効率的にアポ型タンパク質を得ることができた。本系で機能するタンパク質は一般的なヘム結合タンパク質と異なりヘム結合部位が溶媒領域に露出しており、長いループ構造をとっているために、アポ型タンパク質は構造が不安定であると予想された。実際に、ヘム結合型タンパク質に比較して、アポ型タンパク質では良質な結晶は得られなかった。今回、本系を構成する全てのタンパク質についてアポ型変異タンパク質を調製して、その一つから構造を得ることに成功した。前項で述べた通り、その構造が過渡的複合体をミミックするようなドメインスワップ二量体を形成していた。 真菌のヘムリレー輸送についても研究を進めている。研究計画では、カンジダ由来のPga7とRbt5間のヘムリレー輸送に着目すると共に、初年度は構造未知であるこれらCFEMファミリータンパク質の構造解析を目指した。しかし、昨年度にCFEMファミリーに属するCsa2の結晶構造が報告され、Csa2がPga7やRbt5とヘム輸送を行うことも併せて報告された (Nasser et al., Nature Microb., 2016)。Csa2の結晶構造では、よく保存された8つのCysがジスルフィド結合を作ることでコンパクトな立体構造を維持していた。CFEMファミリータンパク質の組換え大腸菌による発現が困難であったが、ジスルフィド結合がその原因である可能性は高い。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究によって、コリネバクテリアのHtaAのドメインスワップ二量体構造を決定することができた。この二量体構造はヘムリレー輸送におけるヘム輸送タンパク質の過渡的複合体のモデルになりうると考えた。ドメインスワップを介したヘム輸送は考えにくいが、N末端領域の構造の柔軟性が過渡的複合体をもたらしていると指摘できる。そこで、当初の研究計画に従い、ヘム結合型とアポ型のタンパク質を混ぜて結晶化することで、ヘムを含む二者複合体の結晶構造解析を目指す。 真菌のヘムリレー輸送系の研究は、海外のグループによるCsa2の構造研究が先行しており、従来とは異なるヘムリレー輸送経路が提唱された。現在、これらを追試すべくCFEMファミリータンパク質の組換え発現系の構築と安定な調製法の確立を目指している。また、真菌はCFEMファミリー以外にも様々なヘム輸送タンパク質を有しており、それらを対象とした構造研究も進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
結晶化条件スクリーニング試薬の消耗が予定よりも少なかった点が挙げられる。精製に使用する樹脂も同様に新規に購入することがなかった。これらはいずれも消耗品であるため、試薬の使用頻度やクロマトグラフィ用樹脂の劣化状況から次年度に購入すべきであると考え、次年度使用するに至った。
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Research Products
(4 results)