2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K15082
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
村山 祐子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (50708592)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クライオ電子顕微鏡 / 転写 |
Outline of Annual Research Achievements |
RNAポリメラーゼ(RNAP)は、分子量約400 kDaの巨大なタンパク質複合体であり、細胞内にDNAとして保存された遺伝情報を、RNAに転写する役割を担っている。転写の開始から終結までの間には様々な局面が存在し、RNAPはそれぞれの局面において適切な機能を発揮する必要がある。このような機能調節は、様々なタンパク質や、RNAPによって合成されたばかりの新生RNAが、RNAPと相互作用することで成し遂げられている。これまでの研究によって、これらのタンパク質やRNAは、転写の特定の局面においてRNAPに結合し、その構造をダイナミックに変化させることが分かってきた。 RNAPによる転写の最終段階は、RNAの合成を終えたRNAPが鋳型DNAと新生RNAから解離する、「転写終結」である。本研究では、転写終結因子Rhoを結合したRNAP複合体の構造を解明することにより、転写終結の構造基盤を明らかにすることを目指している。 転写終結因子Rhoは分子量約300 kDaのRNAヘリケースであり、転写中の新生RNA上にある転写終結シグナル配列に結合する。RhoはATP加水分解のエネルギーを使って、新生RNA上をRNAPに向かって進み、RhoがRNAPに追いつくことによって転写終結が引き起こされると考えられている。 本研究ではこれまでに、大腸菌および好熱菌由来のRNAPとRhoを構造解析用に大量に調製し、転写終結活性を確認した。さらに、低分解能ながら、転写終結状態を再現したRho-RNAP複合体のクライオ電子顕微鏡構造を得ることに成功した。転写終結段階におけるRNAPの構造はこれまでに1つも報告されておらず、この複合体構造を解明できれば、転写終結メカニズムの理解が大きく進展することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大腸菌由来Rhoについては、前年度に調製に成功していたが、このRhoをRNAPの伸長複合体に加えたときに、転写終結を起こす伸長複合体の割合は10%程度にとどまっていた。この割合を上げるために様々な検討を行った結果、Rhoの基質となりうる、活性のある伸長複合体のみを選別して調製することで、Rhoによる転写終結が効率よく引き起こされることが分かった。 並行して、高度好熱菌由来Rhoのクローニングと調製を行った。大腸菌由来サンプルでの検討結果に基づいて、同様の方法でRho依存転写終結の活性を調べたところ、ほぼ100%の効率で転写終結が起こることが確認された。大腸菌由来のサンプルと比べて安定に活性を発揮する傾向がみられたことから、以降は好熱菌由来サンプルを優先して研究を進めた。 好熱菌由来の転写伸長複合体にRhoおよびATPアナログを加えて複合体を形成させ、クライオ電子顕微鏡で観察したところ、割合は低いながらRhoを結合した伸長複合体の粒子が確認された。予備的な構造解析の結果、15Å程度の低分解能ながら、複合体の構造を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
Rho-RNAP複合体構造の精度を上げるため、サンプルおよびグリッドの調製方法の改善を進め、本年度中の構造決定を目指す。現時点で得られている複合体構造においては、RhoとRNAPの位置関係が僅かずつ異なるものが観察されるため、より均一な複合体を得るために、架橋剤の使用や、超遠心法による複合体精製等を試みる。 また、バクテリアの細胞内では、RNAPによって転写されたRNAが直ちにリボソームに翻訳されるが、何らかの理由によってリボソームによる翻訳が停止し、リボソームとRNAPの間に露出したRNAの領域が生じると、そこにRhoがリクルートされて転写終結を起こすと考えられている。この状態を再現した複合体(リボソーム-Rho-RNAP複合体)についても、現在調製方法の検討を行っている。 なお、研究計画段階では、Rhoの補助因子として転写終結を促進するタンパク質NusGを結合した伸長複合体の構造解析を予定していた。この複合体については、1年度目の時点で予備的な構造を得ていたものの、直後に別の研究グループからほぼ同様の複合体構造が報告されたため、優先順位は低いものとなっている。
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Causes of Carryover |
1年目および2年目において、合成RNA等、単価の高い物品の購入が必要な場合を想定して多めの使用額を設定したが、特に1年目において、タンパク質精製の段階で検討に時間を要したため、物品費の使用時期が当初の計画よりも遅い時期にずれ込んでいる。そのため、本年度は当初計画よりも多く物品費を使用することが見込まれる。また、海外における学会での発表のため、当初計画より本年度の旅費の額が多くなることが見込まれる。
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