2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K15082
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
村山 祐子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (50708592)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | クライオ電子顕微鏡構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
RNAポリメラーゼ(RNAP)は遺伝情報の転写を行う巨大なタンパク質複合体である。RNAPは細胞内の状況に応じて様々な転写因子や新生RNAと相互作用し,そのコンフォメーションを変化させることで様々な機能を切り替えている。転写終結は転写の最終段階で,転写領域の境界を決める役割に加えて不必要な転写を抑制する役割を担う。本研究では転写終結の構造基盤を解き明かすことを目的とし,転写終結因子Rhoを結合したRNAP複合体の構造を解明することを目指している。 前年度までに,RhoおよびATPアナログを結合したRNAP伸長複合体について分解能約7Åの予備的な構造を決定し,Rhoが閉じた状態の六量体としてRNAPの新生RNAチャネルに結合することを見出した。本年度は新生RNAチャネル付近のドメインを欠損した変異体RNAPを用いた構造解析および転写終結アッセイを行い,b-flap tipと呼ばれるモチーフがRhoの結合および転写終結促進機能に重要であることを示した。 当該年度中に別の研究グループからRhoを結合したRNAP伸長複合体の構造が報告されたが,本研究で得られた構造とはRho六量体のコンフォメーションおよびRNAPへの結合様式が全く異なるものであった。この複合体構造においては新生RNAとRhoの相互作用が確認できなかったが,本研究で得られた構造ではRNAPからRhoのチャネル内に新生RNAが直接導かれる様子が観察され,Rhoによる転写終結機能をより明解に説明するものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス対策のために実験を行えない期間があったため,研究の進捗は当初の計画よりやや遅れた。 前年度までに得られていた予備的な構造に基づいてRNAP-Rho結合部位の変異体を作製し,構造解析および機能解析を行った。 RNA出口チャネルの一部を形成するb-flap tipと呼ばれるモチーフを欠失した変異体において,Rho依存転写終結が顕著に阻害されることが分かった。b-flap tip欠損RNAPとRhoの複合体について構造解析を試みたところ,Rhoは従前の新生RNAの出口付近ではなく上流DNA付近に,逆向きに結合していた。これらの結果から,b-flap tipがRhoの結合と転写終結促進機能に重要であることが示された。 一方,RNAPのomegaサブユニットC端ヘリックスを欠損させた変異体RNAPにおいては,Rho依存転写終結の亢進が見られた。前述の予備的な複合体構造からはこのヘリックス部分とRhoのクラッシュが予想されたことから,この変異体RNAPはより強固にRhoと結合すると考えられ,構造解析に適した安定な複合体を得られると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに得られている構造の分解能を改善するためには,より多くの複合体粒子を用いた構造解析が必要である。これまでに,複合体をより多く含むクライオ電顕試料を再現性良く作製することに取り組んできたが,前項で述べた変異体RNAPを利用し,さらにクロスリンカーを用いることで複合体の安定性を改善できることが分かってきた。本年度は,現在保持している試料を用いてデータ収集および構造解析に取り組むと同時に,さらなる試料調製方法の改善を図る。今年度から当研究所において新しいクライオ電顕の本格運用が始まっており,電顕画像の質およびデータ収集効率の大幅な改善が期待できる。 また,別グループからRNAP-Rho複合体の構造が発表されたことを受けて,本研究で得られた構造と比較検証するための実験を行う。別グループから発表された構造において,RhoはN端側ドメインを介してRNAPに結合しているが,本研究で得られた構造ではC端側ドメインを介してRNAPに結合している。RhoのN端側の面にRNAPとの結合を阻害するようなドメインを挿入したRho変異体を調製し,Rho依存転写終結アッセイを行うことにより,N端側を介した結合が転写終結促進機能に影響するかを検証する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス対策の影響で実験ができない時期があったため,次年度使用額が生じた。次年度使用額は主に電子顕微鏡用グリッド等の消耗品購入費、論文の校正費、また必要が生じれば研究所外の電子顕微鏡利用費等に使用する計画である。
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