2017 Fiscal Year Research-status Report
Structural basis for the selection mechanism of specific kinase signaling pathways via stimuli-dependent modulations of the functional equilibrium
Project/Area Number |
17K15083
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
徳永 裕二 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (80713354)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 基質選択性 / ストレス応答 / キナーゼ / リン酸化 / 分子間相互作用 / 溶液NMR法 / pH |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)平成29年度には、p38が特異的基質をリン酸化する際に、環境に応じて特定の基質を選び取る機構の一端を解明することを目的とした。この観点から、生理的ストレスに付随する細胞内酸性化が、p38の基質特異性プロファイルをどのように変化させるかを調べた。この結果、pH低下条件においては、ストレス応答時に働くp38の基質であるATF2を他の基質と比較して効率よくリン酸化するように変化することをin vitro キナーゼアッセイにより示した。さらに、この変化は、ATF2のp38結合部位に固有のヒスチジン残基におけるpH低下に伴うプロトン化に依拠することを突き止め、一時配列レベルでの構造機構を解明した。 (2)ATF2のT69およびT71の二重リン酸化について、実時間NMR測定によるキナーゼアッセイから、両者のリン酸化を分析的に解析した。この結果、T71リン酸化はpH低下時にのみ効率よく進行することが明らかとなった。このような、隣り合う2箇所のリン酸化に対するpHの非対称的な影響は予想外の結果であった。増殖シグナル下でのATF2リン酸化においては、T71のリン酸化はERK2を責任キナーゼとし、p38はT69のみをリン酸化することが知られているが、今回得られたデータはこの生物学的知見をin vitroにて示すとともに、ストレス下ではこのような制限が解除されることを示したものと言える。 (3)平成30年度にp38-ATF2複合体の動的構造解析を実施するに先立ち、高分子量となる複合体への対応を想定して、従来はメチル基1H核に用いられてきた禁制コヒーレンス(FCT)解析法を19F核に適用する技術的拡張を検討した。この結果、p38結合状態におけるCF3基含有化合物の運動性を定量的に解析することに成功し、学術論文雑誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の目標として、キナーゼが特異的基質のリン酸化において、環境条件を制御因子として特定の基質を選別する現象を実証するとともに、その機構を生化学的に解明することを目標とした。本年度に得られた成果は、ストレス応答キナーゼp38が、ストレスに固有の環境因子であるpH酸性化を感知し、特異的基質の中から転写因子ATF2を優先的に効率よくリン酸化することを示しており、環境依存的な基質選別機構の実例を示した。さらに、このアミノ酸配列レベルでの構造機構として、pHに依存してプロトン化状態の変化するATF2上のヒスチジン残基群の寄与を同定した。したがって、平成29年度の計画内容を達成できたと考えられる。 上記に加えて、ATF2のT69およびT71の二重リン酸化についての実時間NMR測定によるキナーゼアッセイを行った結果、T71リン酸化はpH低下時にのみ効率よく進行することが明らかとなった。このような隣り合う2箇所のリン酸化の非対称的なpH依存性は、増殖シグナルおよびストレスシグナルの両方に働くATF2が、その時々にリン酸化の責任キナーゼを使い分ける分子論的原理を説明するものであり、MAPKにおける基質選別と対をなす、基質における責任キナーゼの選別機構を見出したものといえる。 また、新たに開発した19F-FCT法は、高難度タンパク質の構造情報取得に実績がある19F核において定量的な構造運動性解析を可能とするものであり、p38-ATF2複合体の動的構造解析においても有効なツールとなる。 このように、当所の目的を達成したことに加えて、次年度のみならず申請課題の枠を拡張する発見に至っていることから、上記のような評価を与えた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には、p38とATF2の複合体中にて形成される分子間相互作用について、pH依存性な変化を立体構造の観点から明らかとする。まずは、ATF2のヒスチジン残基のNMRシグナルの観測および帰属を行い、p38結合時および非結合時におけるpKa値を決定することで、親和調節とアミノ酸残基側鎖における荷電状態を定量的に相関づける。さらに、交差飽和法、分子間核オーバーハウザー法、および常磁性緩和促進法などを用いることにより、p38とATF2の分子間相対配置が、局所およびグローバルにどのような変化を示すか、明らかとする。この際、既に明らかとしているATF2ドッキング相互作用によるp38のアロステリック活性化についても、pH依存性を同時に調べることで、機能に直結した動的構造情報を取得する。p38のアロステリック活性化については、未発表のデータとして、単独状態のp38がATP高親和性構造を低存在確率にて形成しており、ドッキング相互作用がこの存在割合を上昇させることでアロステリック制御を行うことを見出している。したがって、ATF2結合によるp38の構造平衡の変調に対するpHの影響をまずは解析することとする。なお、動的構造情報の取得において、構造揺らぎのために特定の部位のNMRシグナルが観測不可能となることも想定されるが、このような場合には、変異導入したCys残基側鎖にCF3基を化学修飾し、今年度に開発した19F-FCT法を適用することで、高感度に運動性解析を実施する。これらの知見を総合し、学術論文雑誌に発表する。 また、ATF2のリン酸化に対する環境依存的な責任キナーゼの選別についても、昨年度までに増殖シグナル下にて働くERK2のNMR試料調製系を確立しており、今後、ATF2との相互作用およびリン酸化を解析することにより、p38経路とのクロストークの環境依存性について知見を収集する。
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Research Products
(3 results)