2017 Fiscal Year Research-status Report
細菌ロンボイドプロテアーゼGlpGによるべん毛Ⅲ型分泌装置の機能制御機構の解析
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17K15091
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
檜作 洋平 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (70568930)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大腸菌 / Rhomboid / 膜内切断プロテアーゼ / べん毛 / III型分泌装置 / 質量分析 / アシル化 / 膜タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は大腸菌RhomboidプロテアーゼホモログGlpGの生理的切断基質候補として新たに見出されたべん毛III型分泌装置構成因子である膜タンパク質FliOについて、GlpGによるFliOの切断がべん毛III型分泌装置の機能発現・維持にどう関与するのかという生理学的意義を明らかにするとともに、Rhomboidプロテアーゼの普遍的性質の解明を目指すものである。本年度はin vivoにおけるGlpGによるFliO切断の詳細解析とその生理的意義の検証を主として研究を実施した。in vivoにおいてFliOはGlpGのプロテアーゼ活性依存的にSDS-PAGE上で移動度の異なる複数の分子種を生じる。そこで放射線標識FliOのパルスチェイス解析系を構築し、各分子種の挙動を追跡したところ、FliOはGlpGの活性非依存的になんらかの修飾を受け、一方で活性依存的に切断断片を生じることが示唆された。そこでFliO-His10のNi-affinity精製系を構築し、理化学研究所の堂前直博士との共同研究により、精製したFliO各分子種の質量分析(MALDI-TOF MS, LC-MS/MS)を行った。その結果、FliOは複数のN末端アシル化修飾を受け得ること、そしてGlpGによって膜貫通領域近傍で二か所切断を受け得ることを見出した。これらの結果から、FliOは発現・膜挿入後に、複数のN末端修飾とGlpGによる切断を独立あるいは連続的に受ける、というモデルを立てた。続いてGlpGによる切断部位周辺の変異解析を進めた。切断断片を模した二種類のFliO N末端欠失体はいずれもfliO欠失株の運動能を野生型FliOと同等レベルに回復させたが、これらの欠失体は細胞内での蓄積量が大きく減少していた。これらの結果からFliOのN末端領域はFliOの機能(III型分泌装置形成促進)には必須ではないが、タンパク質の安定性に関与することが示唆された。これらの成果はGlpGによるFliO切断の生理的意義について一定の理解を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は申請書の研究実施計画の項目【1】~【5】のうち主として項目【1】、【2】について研究を実施した。項目【1】に関しては大きな進展があった。申請時点ではFliOはGlpGの新規切断基質候補として捉えられていたが、パルスチェイス解析及び質量分析による詳細な解析により、FliOが予想外に複数のN末端の修飾を受けること、さらにGlpGによる切断も二か所で起こることが示唆された。FliOが膜挿入後に多段階のプロセシング(修飾及び切断)を受け得るということは予期していなかったことであり、FliOがこのような非常に複雑な成熟・分解過程を経ることがべん毛III型分泌装置の構築・機能においてどのような意義を持つのか、という新たな学術的視点を与えるものと言える。また、今回明らかにした膜タンパク質のN末端アシル化修飾という現象はこれまでほとんど報告例がない。どのような修飾酵素が、どのような分子機構で、何のためにこのような修飾反応を起こすのか、現時点では全く不明である。これらの疑問を明らかにしていくことは、膜タンパク質の機能発現・秩序維持機構について新しい概念を生み出す可能性があり、研究対象として意義深いものと考えられる。また、本年度の研究においてGlpGによるFliO切断の生理的意義についても一定の理解を与える結果が得られており、項目【1】に関して着実な進展を示しているといえる。項目【2】に関しては、in vitroでのGlpGによるFliOの切断の再構成系の構築に向け、FliOの精製系を確立したという点で、一定の進捗があったといえる。以上の観点から、ここまでの研究計画はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によりFliOが当初想定していたGlpGによる切断基質としてのみならず、未知のN末端アシル化修飾を受けていることが明らかになったことを受け、その学術的重要性からある程度の研究計画の変更が必要と考えている。具体的には、GlpGによるFliO切断の詳細な分子機構及びその生理的意義の解明に加え、N末端アシル化修飾の実態及びその生理的意義を明らかにすることを新たな研究目的とし、研究計画を修正する。切断に関する研究計画は、当初の計画通りに推進する。修飾に関する研究目的を達成する上で最も重要な課題は修飾酵素を同定することと考える。アシル化修飾に関する酵素としてはアシル化転移酵素及び脱アシル化酵素が想定されるが、膜タンパク質の、かつN末端アミノ基の修飾に関わる酵素は細菌において報告例がない。そこでいくつかの対応策をここで述べる。1)大腸菌全ORFをクローニングしたASKAライブラリーをFliO発現株に導入し、発現によってFliOの修飾パターンが変化する遺伝子を探索する。2)大腸菌遺伝子欠失株ライブラリーであるKEIOコレクションを用いて、FliOを発現させた時に修飾パターンが変化する欠失株を探索する。3)FliOを無細胞タンパク質合成系で合成し、そこに大腸菌抽出液あるいは分画物を混合して修飾パターンが変化するかを調べ、変化が見られるようならその責任因子を生化学的手法で単離する。これらの対応策により修飾酵素が同定できれば、その修飾反応の分子機構の詳細解析や、遺伝子変異解析等による生理的意義の解明を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度の使用状況:(物品費)設備備品等は申請者がこれまで行ってきた大腸菌膜内切断プロテアーゼ関連の解析及び蛍光顕微鏡解析等を発展させたものであり、研究室の保有機器及び研究所の共同利用機器を使用することで研究遂行が可能であった。本年度は蛍光顕微鏡解析における恒温維持装置の購入・設置を見合わせ、消耗品等については当初予定していたべん毛関連因子の抗体作製、蛍光修飾試薬、架橋試薬等の購入を見送ったため、使用額が減少した。(旅費)国外学会の参加を見送ったこと、共同研究の打ち合わせが必要なかったことなどから使用額が減少した。(人件費・謝金等)ペプチドN末端解析を当初予定していた外部委託から共同研究に切り替えたこと、論文作成時の英文校閲費用等がまだ必要とならなかったことによって使用額が減少した。(その他)計上していた論文投稿料が必要とならなかったことによって使用額が減少した。 次年度の使用計画:(物品費)研究の進捗状況により、各種べん毛関連の抗体作製費、蛍光試薬や架橋試薬の購入費等で使用する予定である。また、蛍光顕微鏡解析の進捗によっては系の改良、設置費用を計上する必要がある。(旅費)次年度は積極的に学会に参加し、発表する予定である。(人件費・謝金等)次年度は研究成果をとりまとめ論文作成に取り掛かる予定である。その際には英文校閲費等を計上する。(その他)論文投稿料を計上する予定である。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Endosomal Rab cycles regulate Parkin-mediated mitophagy.2018
Author(s)
Yamano K, Wang C, Sarraf SA, Münch C, Kikuchi R, Noda NN, Hizukuri Y, Kanemaki MT, Harper W, Tanaka K, Matsuda N, Youle RJ.
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Journal Title
eLife
Volume: 7
Pages: e31326
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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