2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of electron nano-diffraction for the study on membrane structures
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17K15107
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
木下 祥尚 九州大学, 理学研究院, 助教 (40529517)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 電子線散乱 / 人工膜 / 脂質ラフト / ナノ構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体膜に存在する秩序的領域「脂質ラフト」は様々な生体機能発現の場を提供することが知られ、幅広い分野で注目を集めてきた。一方で、脂質ラフトのサイズは100-200nm程度と非常に小さいため、その構造はもっぱらの推測であり直接的な知見は取得されていない。そこで我々は、収束性に優れた電子線を用いることで、微小な脂質ラフトの構造情報を選択的に取得できるのではないかと考えた。一方、電子線は脂質膜に対し大きなダメージを与えるため、脂質膜本来の構造を取得するためには、実験条件の最適化が不可欠である。昨年度、我々は、電子線照射量を低減し、かつクライオホルダを用いてビームダメージを低減することで、脂質膜の構造情報を非侵襲的に取得することに成功した。そこで、本年度はラフト様微小膜領域に対し選択的に電子線の照射を試みた。 我々は飽和リン脂質DSPCと不飽和リン脂質DOPCを混合することで、ラフト様/非ラフト様相分離膜を作製した。この混合系ではμmサイズのラフト様/非ラフト様相分離が生じる。また、試料には微量の蛍光物質を混合してあるため、蛍光顕微鏡を用いてラフト様領域の位置を確認できる。次に、この試料を電子顕微鏡用メッシュに移し取、半固形窒素に投入すること急速凍結した。次に、低温低圧化で水を昇華させた。この過程で、脂質の拡散は凍結しており、水中での脂質の構造を維持したままの乾燥試料が調製できる。次に、この相分離膜を電顕メッシュ状に展開し、ラフト様領域と非ラフト様領域に対し別々に電子線を照射することで、相選択的に構造情報を取得した。その結果、ラフト様領域からは秩序的な膜特有のシャープな散乱が検出されたのに対し、周囲の無秩序領域からはブロードな散乱のみが取得された。この結果は、ラフト様秩序領域と無秩序領域からの散乱を選択的に取得した初めての結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本申請を達成するための研究期間は3年間を予定しており、当該年度は2年目である。 当初の予定では、当該年度中には脂質膜に対する電子線適応技術の開発と100 nmサイズの膜領域に対し、電子線の選択的照射を行う予定であった。現在のところ目的とする膜領域への電子線照射は成功しているが、そのサイズは1μm程度であり、目的とする脂質ラフトのサイズに比べて(100 nm)大きいままである。そのため、より微小領域への電子線照射技術の開発を速やかに行い、疎の技術を生体膜に存在する脂質ラフトに適応する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は(1)より小さな膜ドメイン対し電子線を照射する技術を開発し、(2)生体膜に存在する脂質ラフトの構造情報を選択的に取得する。これまでの研究では事前に蛍光顕微鏡観察を行うことでラフト様領域の場所を特定し、そのドメインに対し電子線の照射を試みてきた。しかし、この手法では蛍光顕微鏡の分解能(~300 nm)以下の微小領域の位置を事前に把握するこは不可能である。 この問題を解決するためには、電子顕微鏡下でドメインを可視化することが必要である。そこで我々は、CLEM法を用いることでこの問題が解決できるのではないかと考えている。CLEM法とは蛍光物質に対し強い励起光を照射した時に生じる活性酸素を重金属で標識する手法であある。この手法は、蛍光物質の存在位置を電子顕微鏡下で観察するために幅広く用いられている。我々は、人工的にサブミクロンサイズのラフト様領域を作製し、非ラフト様領域を蛍光標識する。この試料にCLEM法を適応することで、相分離を電子顕微鏡下で可視化する。次に、電子線をラフト様領域に照射する(CLEM-ED法)。このとき、重金属標識されているのは非ラフト様領域であるため、ラフト様領域からの散乱に重金属は影響を与えない。 さらに、同様のCLEM-ED法を生体膜に適応することで、脂質ラフトを可視化し、その構造情報を選択的に取得する。
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Causes of Carryover |
本年度の本学共通機器(電子顕微鏡)の使用回数が予定していたより少なかったため、差額が生じた。本差額分は次年度の装置使用料として、速やかに執行する。
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