2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K15126
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐藤 裕公 大阪大学, 微生物病研究所, 講師 (40545571)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 卵活性化 / 受精 / PLCz1 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の個体が発生する開始点である受精、中でも哺乳類の受精に関する研究はわが国でも基礎生物学と医療の発展に寄与してきた歴史があり、現在では人工授精に由来する新生児は1/40人以上に達するなど、その発展応用が社会にもたらした功績は大きい。しかし近年は、主に晩婚化に伴う“卵と精子の質の低下”などにより、その効率や手法の限界が迫っているとされている。 哺乳類の受精では、半数体の卵と精子が融合することで、個体発生の起源となる2倍体の受精卵(胚)が作られる。しかしながら、配偶子融合と発生開始は同義ではない。受精の刺激が正しく卵に与えられ、卵内Ca2+濃度が大きく変化するCa2+振動によって細胞周期が再開される必要がある。本研究では、最大の課題となる卵に発生をスタートさせる能力(卵活性化能)への基礎的な理解を充足させ、さらにこの能力を低量的に評価する手法を構築することを目指し、遺伝子欠損マウスとライブイメージング技術を用いて研究を推進する。 今年度は、未発表であったPLCz1遺伝子欠損マウスの表現型に関する解析を進め、申請者らの構築した低侵襲性イメージング法を駆使することによって、精子に含まれるPLCz1こそが、長年同定されてこなかった哺乳類の卵を活性化する活性化因子であることを証明した。さらに、PLCz1を失った精子でも自然受精の条件では活性化が起こりうることを発見した。この新たに発見された活性化機構について解析を行った結果、この活性化機構においては、複数の精子が融合する確立が高くなり、さらに、融合した精子の数が増えるほど、受精時に起こるCa2+変化が大きくなることを見出した。また、これらを併せて、論文として発表することが出来た(Nozawa and Satouh et al., Sci Rep 2018)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、PLCz1の強い卵活性化能力が存在すると他の因子の活性を計測しにくいことが予測されたため、1つ目の課題をマイナー卵活性化因子の探索として、弱い活性をもたらす卵活性化因子候補を予測しゲノム編集技術によってPLCz1との多重遺伝子破壊マウス/精子を作出して検証することとした、しかしながら、2つ目の課題として設定したマイクロ胚操作による活性化メカニズム探索が順調に進んだ結果、精子を顕微授精する際に、精子頭部・精子全体・精子中片部の打ち分け実験に成功し、これらの結果から、頭部あるいは中片部(ミトコンドリア)に含まれている可溶性因子がマイナー卵活性化因子である可能性は限りなく低いことが明らかになり、候補因子の再選考をするに至った。 今年度の解析では、PLCz1遺伝子欠損マウスの表現型に関する解析の中で、顕微授精(ガラス針を使った精子の注入)で低侵襲性イメージング法でCa2+イオンの動態を記録すると、何も変化が起きないことが分かったが、PLCz1を失った精子で試験管内人工授精を起こしてCa2+イオンの動態を記録すると、微弱で遅い変化が起こることが分かった。さらに、変化の頻度が高い場合には卵が活性化する割合が高くなった(Nozawa and Satouh et al., Sci Rep 2018)。これらのことから、PLCz1非存在下で動きうるマイナーな卵活性化因子は、卵と精子が細胞融合を経る条件でないと卵に伝達されないような、膜結合型因子であることを強く示唆することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度は、特に上記の項目のうちマイナー卵活性化因子の探索を中心に研究を進める予定である。上記にあるように、弱い活性をもたらす卵活性化因子候補を予測は可溶性因子ではなく、膜結合性因子であると考えられる。また、一方で、低侵襲性イメージングによる解析からは、融合した精子の数にたいして、Ca2+濃度の変化の度合いは比例的な関係を持っていることが分かった。これは、哺乳類よりもより原始的な受精の形式に近い。そこで、今後の研究については、膜結合性因子で、かつ原始的な受精の卵活性化に関与が示唆されており、まだ哺乳類では重要性が議論されていない因子に注目して進める予定である。 これらについて、出来る限り複数の因子を候補として挙げた後、ゲノム編集技術によって遺伝子破壊マウス/精子を作出して検証する。ただし、この弱い卵活性化因子の働きを捉えるには、PLCz1の非存在下で、かつ自然受精を経たときに限られるため、まずは遺伝子の重複破壊を行った後に、産仔数の検定を行い、更なる産仔数の減少が見られたときにのみ機能解析を行う。機能解析では、マイクロ胚操作による活性化メカニズム探索の技術が向上しているため、これらの因子を発現させた細胞片の融合を人工的に誘導することで、受精刺激の再構成実験を試みる予定である。
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Research Products
(6 results)