2018 Fiscal Year Research-status Report
A study about signaling sysytem of carbon-deficient responsive peptide
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17K15137
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
岡本 暁 新潟大学, 自然科学系, 助教 (10582421)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ペプチド / シンクーソース / 植物ホルモン |
Outline of Annual Research Achievements |
植物個体は根、茎、葉、果実などの異なる性質を持つ複数の器官により構成されている。そのため個体全体が周囲の環境に適応したり効率的に生産活動を行ったりするには、器官同士で物質や情報の交換を行うことが必要である。植物は光合成により炭素を固定し、それをソース器官である葉からシンク器官である根、果実などへと分配する。これまでシンク器官やソース器官における光合成産物の代謝や輸送については詳細な研究が行われてきた。その一方で、両者の間でそれらを積極的に制御するような長距離シグナル伝達が行われるかどうかは明らかにされていない。 これに対し、研究代表者はこれまでにダイズ道管液から同定した分泌型ペプチドXAPおよびそのシロイヌナズナにおけるXAP様ペプチドArabidopsis XAP-like (AXL)がそれぞれの植物体において光合成産物の欠乏した根で誘導され、地上部に対して光合成産物の分配を要求するためのシグナル因子として働く可能性を見出している。なお、シロイヌナズナではAXLのホモログが7個存在することがわかっている(AXL1-AXL7)。2017年度はAXL1エストロゲン誘導系統およびAXL1, 2二重変異系統を用いたRNA sequence解析の結果から、それらの系統では複数のABA関連の遺伝子の発現量が変動していた。このことからXAPの下流ではABAシグナル伝達系が機能する可能性があると考えた。そこで2018年度はAXL1エストロゲン誘導系統およびaxl1, 2二重変異系統を用いて、ABA含量の解析を行うとともにABA応答性遺伝子やデンプンの分解酵素をコードするアミラーゼ遺伝子の発現解析を行なった。また、シロイヌナズナ野生型にABAを添加して、光合成産物の含量に与える影響を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度はAXLの下流でABAシグナル伝達系が関与する可能性を見出した。そこで2018年度はその可能性の検証を行なった。まず、シロイヌナズナの地上部へABAを添加し、光合成産物(デンプン、スクロース)の含量への影響を調べた。その結果、ABAの添加によるデンプン、スクロース含量への効果はAXL過剰発現系統と同様の傾向を示すことがわかった。また、ABA関連遺伝子に着目したリアルタイムPCR解析では、RNA sequenceの結果と同様の発現パターンを示すことがわかった。しかしながら、AXL1エストロゲン誘導系統およびaxl1, 2二重変異系統を用いて、地上部のABA含量を定量したところ、それらの系統と野生型の間では明確な差が見られなかった。 一方、デンプン分解酵素に着目した解析では、βアミラーゼおよびαアミラーゼをコードする一部の遺伝子の発現量がaxl1,2二重変異系統, axl1-7多重変異系統で有意に低下しており、この結果は、それらの変異系統ではスクロース含量が低下することと矛盾しなかった。
以上の結果から、一部は予想とはことなる結果が得られたものの、AXL1の下流で機能する因子の探索は進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
地上部におけるABAの定量において、研究代表者の予想とは異なり、野生型とaxl1,2二重変異体の間で差が見られなかった。その理由として次の二つの可能性が考えられる。一つは用いたサンプルでは差が見えにくかった可能性である。ABAの定量解析ではaxl1,2二重変異系統を用いたのに対し、その後に行なった光合成産物の定量やABA応答性遺伝子の発現解析ではaxl1,2二重変異体に加えてaxl1-7多重変異系統も用いており、axl1-7多重変異系統のが、有意差が出る傾向があった(ABAの定量を行なった際にはaxl多重変異系統の種子の準備ができなかったため、実施できなかった)。そのため、多重変異系統を用いたABAの定量を行う必要があると考えている。また、AXL1過剰発現系統においても、地上部におけるABAの定量やABA関連遺伝子の発現定量を行いたい。また、二つ目の可能性として、AXLによる応答はABAシグナル伝達系の一部を介して行われるものの、ABAそのものは必須ではない可能性である。この可能性については、RNA sequenceの結果について、ABA合成系の遺伝子の発現量の変化や、どのような種類の遺伝子が応答したかを再度調べることで検証したい。以上の可能性に留意しながら、2019年度もAXL1の下流で機能する因子の解明に取り組みたい。
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Causes of Carryover |
2018年度は6万円弱余ったが、それは使用計画における誤差の範囲内であると考えている。当該の金額は2019年度の研究に必要な試薬などの購入に充てる計画である。
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