2017 Fiscal Year Research-status Report
維管束篩部分化における、篩要素と篩伴細胞の同調性と細胞間コミュニケーションの解析
Project/Area Number |
17K15139
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
宮島 かおり (古田かおり) 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 特別研究員 (10746655)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植物 / シロイヌナズナ / 維管束篩部 / 篩要素 / 篩伴細胞 / 細胞間コミュニケーション / 細胞分化の同調性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、維管束植物において光合成産物の輸送を担う篩部組織の篩要素細胞と篩伴細胞が、その細胞分化過程でどのように機能的な緊密性を成立させるかを明らかにすることを目的とする。本年度は、シロイヌナズナの根の篩部細胞について、3次元走査型電子顕微鏡解析を行い、篩要素と篩伴細胞の間の原形質連絡を観察した。これにより、篩要素の細胞分化に伴って篩要素と篩伴細胞間の原形質連絡が徐々に発達する様子を明らかにした。これは、篩要素細胞と篩伴細胞の細胞機能において重要な細胞構造が細胞分化に伴って形成されることを示している。 また本年度は、篩要素と篩伴細胞の細胞分化の同調性を遺伝子発現レベルで解析するために、篩要素と篩伴細胞の細胞分化過程において段階的に発現する遺伝子マーカーを整備した。また篩要素と篩伴細胞の分化段階の可視化に適したマーカーについては、同時可視化系を作成した。これらの系統を用いれば、篩要素と篩伴細胞の細胞分化における遺伝子発現様式を解析できると期待できる。 また本年度、篩伴細胞特異的に発現する新規遺伝子SEEN1が細胞非自律的に篩要素の最終分化を制御するという仮説の検証を行った。その結果、SEEN1は篩要素でも一過的に発現し、この篩要素での発現が篩要素分化には十分であることが明らかになった。つまりSEEN1は細胞自律的に篩要素の最終分化を制御していた。SEEN1は既知の篩要素分化の制御因子とは独立に篩要素の最終分化を制御することも見出しており、篩要素分化の新規制御系であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
篩伴細胞は形態学的に、篩要素との原形質連絡が多く細胞質の密度が高いという知見が報告されているが、これらの特徴がどのように細胞分化過程で獲得されるかは不明であった。本年度は、3次元走査型電子顕微鏡データから、篩要素と篩伴細胞の細胞分化過程を解析し、篩要素と篩伴細胞間の原形質連絡が徐々に発達する様子を明らかにできた。 また本年度は、篩要素と篩伴細胞の細胞分化の同調性を遺伝子発現レベルで解析する実験を計画していたが、これについて篩要素と篩伴細胞のマーカー遺伝子を整備し、一部についてはすでに同時可視化が可能になっている。今後詳細に解析するが、すでに一部の突然変異体にはこれらのマーカーの導入を開始している。 また、篩要素と篩伴細胞の細胞間コミュニケーション機構にSEEN1が関与するかどうかを検証し、SEEN1の細胞自律性が明らかになった。そこで、現在は逆遺伝学的手法を用いて、篩伴細胞特異的に発現し篩要素の細胞分化を制御する遺伝子の探索を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、3次元走査型電子顕微鏡画像から、篩要素と篩伴細胞の同調的な細胞分化を解析する。篩要素と篩伴細胞の間の原形質連絡についてはすでに細胞分化に伴って発達する様子が観察されたため、3Dモデリングなどの画像処理や定量的な解析を行う。 また、遺伝子発現レベルでの篩要素と篩伴細胞の細胞分化の同調性を詳細に解析するために、篩要素と篩伴細胞のマーカーの同時可視化系を作成する。順次観察を行い、適したマーカーについては篩部形成に異常のある各種突然変異体などに導入する。これにより、篩要素と篩伴細胞における遺伝子発現のタイミングに協調性があるかどうか、篩要素と篩伴細胞は互いの遺伝子発現を制御するのかどうかを見出す。 また、篩要素と篩伴細胞の細胞間コミュニケーション機構を解析するために、篩伴細胞特異的に発現し篩要素の細胞分化を制御する遺伝子の逆遺伝学的探索を引き続き行う。また同時に、篩要素または篩伴細胞の細胞分化におけるシンプラスト経路の重要性を見出すために、ケンブリッジ大学のYka Helariutta教授との共同研究で、カロース合成酵素遺伝子の優性変異を利用したシンプラスト経路阻害ツール(icals3m系)を用いて、篩要素と篩伴細胞のシンプラスト経路を阻害し、篩要素と篩伴細胞の細胞分化における影響を検証する。 また、SEEN1は篩要素細胞分化の新規の制御因子であることが明らかになったため、引き続きSEEN1の解析も行う。
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Causes of Carryover |
理由:本年度はSEEN1が介する篩要素と篩伴細胞の細胞間コミュニケーション機構の解析のために、seen1突然変異体のサプレッサースクリーニングを予定していたが、本年度の解析によりSEEN1の細胞自律性が見出されたため、計画を変更し、篩伴細胞特異的に発現し篩要素の細胞分化を制御する遺伝子の探索を行うこととしたため、未使用額が生じた。また本研究課題について学会発表を計画していたが、本年度は別の科学研究費(特別研究員奨励費)で行った研究の発表を行ったため、本研究課題の発表は行わなかった。 使用計画:逆遺伝学的スクリーニングを用いて、篩要素と篩伴細胞の細胞間コミュニケーションに関わる因子の探索を行うため、分子生物学的な実験に用いる試薬の購入などに使用する。
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Research Products
(2 results)