2017 Fiscal Year Research-status Report
Mechanisms of maternal inheritance of developmental buffering
Project/Area Number |
17K15167
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
佐藤 敦子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (90589433)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 母性遺伝 / 発生緩衝 / カタユウレイボヤ / ハイブリッド |
Outline of Annual Research Achievements |
卵から成体にいたるまでの過程は、環境の影響を受けやすい。応募者のカタユウレイボヤを用いた研究から、発生過程を環境の影響から守る作用(発生緩衝とよぶ)は、母性遺伝することが明らかになった。本研究では、ハイブリッドの形成が可能で異なった温度域に棲息するカタユウレイボヤの姉妹種を用い、子孫の発生緩衝度合いを決定する母由来のコントロールを明らかにする。さらに、発見された母性因子について、魚類や線虫で機能解析を行い、動物界でのメカニズムの普遍性を検証する。
本年度は、カタユウレイボヤの姉妹種ハイブリッドでの遺伝子発現解析やエピゲノム解析(ATAC-Seq)をすすめたほか、魚類でのDnaJC3の機能解析も進め、成果を米国での国際学会で発表した。さらに、オランダのグループと共同で、線虫で小胞体関連シャペロンを中心とするDNAJのRNAiスクリーニングを行い、カタユウレイボヤから発見されていたDnaJC3やDnaJC10のほかにも、発生緩衝にかかわるDNAJシャペロンが複数存在することを明らかにした。この結果は、これまでHsp90にのみ着目されてきた発生緩衝の研究を大きく転換することが期待される。これらの研究成果は、投稿論文にまとめられたほか(査読中)、動物学会および二つの国際学会でも発表され、関連する研究者から大きな反響を得た。
本研究は、発生や進化の中心的課題であるばかりでなく、医療や地球環境変動下での対策にも重要な知見である。また、脊椎動物以外で知られてこなかったゲノム刷り込みの進化的由来にも迫るものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、発生を変動する環境下でも一定に保っている分子機構を明らかにすることを目的としている。英国海洋生物学研究所(プリマス)にて、カタユウレイボヤの姉妹種を用いたハイブリッドを作成し、RNAサンプルを採集し、トランスクリプトーム解析を行った。また、2種のハイブリッド胚に熱ストレスを与え、遺伝子発現しているゲノム部位をシークエンスするATAC-Seq法によるシークエンスも行った。タイプAのカタユウレイボヤ由来の卵を用いたハイブリッドと、タイプBの卵を用いたハイブリッド間でのトランスクリプトームの比較からは、驚くほど多くの遺伝子で発現レベルに差が無いこと、また、差がある遺伝子モデルはおよそ50に限られることが分かった。これらの遺伝子のうち、マッピングデータから母親由来の発現が優占していることが示された分子について、qPCRを行い、より多くの胚で結果を確認し、統計的な検証を行っているところである。
線虫の実験については、小胞体シャペロンが発生緩衝に関係しているかどうかを検証するため、小胞体に関係したDnaJ分子のRNAiノックダウン実験をオランダのSamantha Hughes博士の研究室と共同で研究を行った。その結果、小胞体シャペロンに限らず様々なDnaJ分子が発生緩衝に関わっていることを明らかにした。この結果は、これまでHsp90のみに着目されてきた発生緩衝の研究を大きく転換するものである。また、発生緩衝が、様々な機能を持つ分子によって成り立っている複雑な機構であることを示唆するものである。本研究結果は、作成した論文をPLOS ONEに投稿中である。
魚類でも、DnaJC3ホモログの機能解析を続けており、重複した遺伝子のうちDnaJC3aのみが発生緩衝に関係することが明らかになりつつある。本成果は、米国での国際学会でも発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
カタユウレイボヤの実験については、qPCRの結果からハイブリッド間で発現量に顕著な差を示す遺伝子について、発現量と発生緩衝の度合いとの関係性が統計的に示唆される分子の同定を進める。また、ATAC-Seqにおける母親由来ゲノムおよび父親由来ゲノムでの発現についての解析をすすめ、母親由来ゲノムの発現が発生緩衝の母性遺伝に果たす役割を明らかにしたい。
魚類(ゼブラフィッシュ)における小胞体シャペロンDnaJC3の役割については、発生緩衝との関連が明らかになったDnaJC3aの分子を中心に、ノックアウト解析や、形態のバリエーションとの関連の数理解析等を行い、投稿論文にまとめたいと考えている。
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Causes of Carryover |
論文のオープンアクセス料が生じることを想定していたが、H29年度内に出版されなかったこと。また、シークエンシング解析の面では、技術開発に予想より時間がかかり、年度内に予定していたシークエンシングができなかったことが挙げられる。しかし、投稿論文は査読中であるし、サンプルの調整法もH29年度に確立したので、これらの費用については、H30年度に請求する。
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