2018 Fiscal Year Research-status Report
Mechanisms of maternal inheritance of developmental buffering
Project/Area Number |
17K15167
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
佐藤 敦子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (90589433)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 発生のロバストネス / カタユウレイボヤ / 隠蔽種 / 姉妹種 / ハイブリッド / エピゲノム / 温度耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
卵から成体にいたるまでの過程は、環境の影響を受けやすい。応募者のこれまでのカタユウレイボヤを用いた研究から、発生過程を環境の影響から守る作用(発生緩衝とよぶ)は、母性遺伝することが明らかになった。本研究では、ハイブリッドの形成が可能で異なった温度域に棲息するカタユウレイボヤの姉妹種を用い、発生緩衝の分子基盤を解明することを目的とする。昨年度行ったハイブリッドのmRNASeqの解析をすすめることで、発生緩衝度合いおよび遺伝子型と統計的に強い相関を示す20遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、代謝やタンパク質合成、またタンパク質の質的管理維持にかかわる遺伝子であった。さらに、観察された発現量の差が母親から卵への供給によるものであるかどうかを検証するため、野生型の卵を姉妹種2種の両方から採集し、発現量を比較した。その結果、発現量の差が、卵での母性mRNAの量では説明できないことが明らかになった。つまり、発生緩衝の母性遺伝は、母性由来のエピジェネティックな制御に依存していることが示唆されたのである。この可能性をさらに追求するため、ATAC-Seqの解析を進め、母親由来ゲノムの発現と父親由来ゲノムからの発現と同量でない、ゲノム刷り込みと同様の現象がカタユウレイボヤでも見られるかどうかについて、SNPs解析を進めている。
母親もしくは父親からの影響は、哺乳類を除く動物でも、昆虫などいくつかの動物から知られているが、エピジェネティックな仕組みの関与は明らかになっていない。本研究の成果は、母性遺伝のしくみについて、進化的な知見を刷新する可能性がある。さらに、発生緩衝の分子基盤については、線虫や酵母など一部のモデル動物で研究が進められているが、野外に棲息する動物ではまだ検証されていない。本研究は、変動する環境下に棲息する生物が、どのように発生を維持しているかを明らかにする、世界で初めての試みとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、去年行ったカタユウレイボヤ姉妹種を用いたハイブリッドのRNA-SeqおよびATAC-Seqの解析を進め、RNA-Seqについては、遺伝子型間で統計的な差を示すもの、かつ、発生緩衝の度合いと相関性を示す遺伝子のリストを作成した。その結果、どちらについてもP < 0.02となる遺伝子モデルが113個同定され、そのうち20遺伝子モデル発生緩衝の母性遺伝に関与していることを示唆することができた。また、野生種の発生緩衝におけるエピジェネティックな仕組みの重要性も示唆することができた。これらの発現量の違いは、当初、野生型でも検証することが予定されていたが、まだ採集されているサンプル数が少なく、到達していない。この点を、期間を延長して行うことになった。
この可能性をさらに追究するため、昨年度行った2種の姉妹種のハイブリッドにおけるエピゲノムシーケンシング(ATAC-Seq)のデータを母親型と父親型を区別するSNPs解析をすることにより、母親由来のゲノムのみの発現によるものであるかどうかを明らかにする作業を行った。すでに発表されている手法(Allele workbench)を使ってすすめていたが、すでにある方法では、途中からうまくいかなくなることが分かった。すでに開発されている方法は、系統が確立しているモデル動物に合わせてあり、本研究のような野生集団に適合しないためかもしれない。そこで独自の手法を開発する必要があり、このため、お茶の水女子大学内の情報科学科の教員と共同研究をはじめた。
また、線虫で進めてきたDnaJシャペロンの発生緩衝における役割についても、論文が発表され、2018年夏にアイルランドで開催された国際学会Euro-Evo-Devoでは、この研究成果の発表が口頭発表に選ばれた。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度までに得られた、カタユウレイボヤハイブリッドにおけるトランスクリプトーム解析の結果をさらに究明するため、当初の計画どおり、野生型の胚を採集し、トランスクリプトームを行っていく必要がある。このため、令和元年の夏に再びプリマスに滞在し、野生型の胚の採集を行う。解析が終わっていないATAC-SeqのSNPs解析については、カタユウレイボヤを用いた同様の研究例がこれまでなく、解析が困難を極めたが、学内の情報科学科の教員からの協力を得ることになり、2019年度には解析が完了することが見込まれる。
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Causes of Carryover |
当初予定していたカタユウレイボヤの野生種の胚でハイブリッドでの解析結果を検証する点について、サンプルの準備に予想以上の時間がかかっているため。2019年夏には、英国でサンプリングを行い、2019年度秋には、解析結果の検証を行う。ATAC-Seqの解析についても、情報科学科の協力を得て、現在進行中である。2019年夏までに解析を終え、秋にはゲノムPCR法を用いた検証を行いたいと考えている。また、本研究で得られた成果を広く世界に発信するため、2019年4月にスペインで開催されるEMBO Workshop 「Protein Quality Control: From Mechanism to Dissease」、および2019年7月に英国マンチェスターで開催される国際学会SMBEで研究成果の発表を行う。
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[Presentation] Role of DnaJ in developmental robustness and canalization2018
Author(s)
Hughes, S., Vrinds, I., Oba, G. I.*, de Roo, J., Shimeld, S. and Sato, A.
Organizer
Euro Evo Devo meeting
Int'l Joint Research
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[Presentation] DnaJ chaperones are important in environmental and genetic canalization2018
Author(s)
Hughes, S., Vrinds, I., Oba, G. I.*, de Roo, J., Shimeld, S. and Sato, A.
Organizer
Cold Spring Harbor Symposia ‘Homeostasis in Health and Disease’
Int'l Joint Research
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