2017 Fiscal Year Research-status Report
空飛ぶ地下生菌仮説の検証―菌類の分生子に着目した,島嶼系統地理の新たな展開
Project/Area Number |
17K15184
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Research Institution | Kanagawa Prefectural Museum of Natural History |
Principal Investigator |
折原 貴道 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 学芸員 (30614945)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地下生菌 / きのこ / 菌類 / 系統地理 / 生物地理 / 系統分類 / 無性胞子 |
Outline of Annual Research Achievements |
地中にきのこの形成する「地下生菌」は,胞子を風散布する一般的な地上性きのこ類とは異なり,陸棲小動物にきのこを食べてもらうことで胞子を散布すると考えられてきた.そのため,海洋島への分散は困難であると考えられるが,実際には海洋島においても複数種の地下生菌が見つかっている.本研究では,海洋島に分布を広げている地下生菌がどのようなメカニズムで分散しているのかを,複数遺伝子領域による系統解析や集団遺伝学的解析,さらに野外での無性胞子の探索などの方法により明らかにしてゆくことを主な目的とする.平成29年度は,研究の基盤構築を目標として,以下のことを実施した. ・主な研究対象地である伊豆諸島(海洋島)とそれに隣接する地域(南関東,伊豆半島),および九州などにおける地下生菌のサンプリング. ・得られた標本からの,DNA複数領域シーケンスの取得と系統解析 ・DNAシーケンスや形態観察に基づく分類学的記載 ・対象とする地下生菌の無性胞子の探索 その結果,伊豆諸島と本州~九州に分断分布する複数種の地下生菌が追加発見され,伊豆諸島(海洋島)に分布を広げた系統とそうでない系統の比較系統地理学的解析を行う基盤を構築することができた.この結果をもとに,2017年10月にベトナム・ホーチミン市において開催されたアジア規模の菌学国際大会(Asian Mycological Congress 2017)などにおいて,複数回の研究成果発表を行った.さらに,担子菌類イグチ科ツチダマタケ属の地下生菌,Rossbeevera yunnanensis Orihara(ウンナンツチダマタケ)の日本新産種報告も行った.今後も,本研究の対象となる分類群の記載を速やかに進める予定である.対象地下生菌の無性胞子の探索も継続的に行っているが,現在までのところ成果は得られていない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
29年度に実施した野外調査において,本研究のターゲットとなる,海洋島と日本本土に分断分布している地下生菌を複数採集することに成功し,それらからDNA複数領域のシーケンスも得られた.これらの成果により,今後研究を進める基盤は整いつつある.ただし,対象種の多くは未記載種であるため,分類学的記載をよりペースを上げて進めてゆく必要がある.野外における無性胞子の探索は,定点調査の予定地がイノシシ被害によりかく乱されたため,想定していた調査が難航している.そのため,調査対象地の拡大もしくは変更を検討している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は,分子系統解析に加え,これまでに得られた対象サンプルの一部について,次世代シーケンサーを用いた遺伝的集団レベルの詳細な系統地理学的解析を進めてゆく予定である.野外調査については,海洋島での調査を継続するほか,琉球列島などの大陸島での調査も並行して実施することで,海洋島に分布を広げた地下生菌の系統とそうでない系統の分散パターンをさらに精査してゆきたい.また,国内および国際学会での中間成果発表も積極的に進めてゆく予定である.
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Causes of Carryover |
標本整理・分子実験補助のために1名アルバイトを雇用予定であったが,被雇用者の個人的事情により雇用できなかったため,当初予定していた人件費の支出がなくなったのが理由の一つである.その他,初年度購入予定であった消耗品を次年度以降の購入に回すことになったため,予定より多くの残額が生じた.支出を予定していた調査についても,一部次年度以降に繰り越しになった.今後,翌年度分予算と合わせて,人件費,設備備品費,消耗品費などに充てる予定である.
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Research Products
(16 results)