2020 Fiscal Year Research-status Report
空飛ぶ地下生菌仮説の検証―菌類の分生子に着目した,島嶼系統地理の新たな展開
Project/Area Number |
17K15184
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Research Institution | Kanagawa Prefectural Museum of Natural History |
Principal Investigator |
折原 貴道 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任学芸員 (30614945)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地下生菌 / きのこ / 系統地理学 / 生物地理 / 無性胞子 / 系統分類 |
Outline of Annual Research Achievements |
地中にきのこを形成する「地下生菌」は,胞子を風散布する一般的な地上性きのこ類とは異なり,陸棲小動物にきのこを摂食されることで胞子を散布すると考えられてきた.そのため,海洋島への分散は困難であると考えられるが,実際には海洋島においても複数種の地下生菌が見つかっている.本研究では,海洋島に分布を広げている地下生菌がどのようなメカニズムで分散しているのかを,複数遺伝子領域による系統解析や集団遺伝学的解析,さらに野外での無性胞子の探索などの方法により明らかにしてゆくことを主な目的とする.令和2年度はCovid-19の影響により野外調査が実施できず、研究に遅れが生じた。研究実績の概要は以下の通りである. ・前年度までに得られたデータを基に、本研究の対象となる地下生菌ホシミノタマタケ属の2新種・日本新産種の記載とそれらの地理的分布の特性や種間・種内交雑に関する新知見をまとめた論文を執筆、国際学術誌に投稿した(受理済)。 ・得られた標本からのDNA複数領域シーケンスの取得 ・本研究に関連する地下生菌およびその類縁菌の分類学的検討(新種記載含む) ・本土における島嶼系統地理学的解析の比較用の地下生菌サンプルの収集 本課題の調査対象地のうち、調査未了の島嶼域での地下生菌のサンプリングを実施予定であったが、Covid-19の拡大により調査を中止せざるを得なかった。そのため、本研究を総括するのに十分なDNAデータが取得できず、本年度中に研究を完了させることができなくなった。また、所属学会・研究会等での成果発表の機会も大幅に減少した。以上の理由から、本研究計画の実施期間を1年延長することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の基礎となるデータは前年度(令和元年度)までに概ね得られていたものの、調査未了の島嶼域からの追加サンプルデータが必要な状況であり、本年度に調査を実施予定であった。しかし、Covid-19拡大の影響により調査が実施できなくなり、研究を完了させられない状態である。一方、これまでに得られたデータを基に、研究対象となる地下生菌の新種記載や系統地理学的知見の集積(論文執筆)は比較的順調に進んでいる。共同研究者とともに進めている次世代シーケンサーを用いた集団遺伝学的解析の進展も滞っているが、すでに得られた結果に多少補完すれば、本研究における主要データとして活用できる状況にある。次年度(最終年度)は、これらのデータの補完を行い、論文にまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もCovid-19の影響により、特に島嶼域での野外調査の実施にあたっては困難な状況が続くと考えられるが、時宜を見計らって実施し、サンプルの確保に努める。それにより得られたデータを、これまでに得られた知見と統合し論文化することで、地下生菌の海峡を越えた広域分散のメカニズム解明に迫ってゆきたい。
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Causes of Carryover |
令和2年度に計画していた島嶼域での野外調査が軒並み中止となったこと、それに伴うデータ取得にかかる費用の支出が減少したこと、および研究成果発表のための旅費の支出が無くなったことにより、未使用額が生じた。2021年度には、前年度実施できなかった野外調査や、分子実験用試薬および機器、サンプルの形態観察用の機器等の購入、DNAシーケンシング委託等に残額を充てる計画である。
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Research Products
(9 results)