2017 Fiscal Year Research-status Report
河川水中の菌類DNA解析による陸域の菌類子実体相の評価
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17K15199
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
松岡 俊将 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 非常勤研究員 (70792828)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 菌類 / 多様性調査 / DNAメタバーコーディング / 時系列調査 / 環境DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(1)菌類メタバーコーディングにより河川水中から菌類の DNA を検出した結果と子実体発生調査結果の比較、(2)水中での胞子・菌糸由来の菌類 DNA の分解速度の 2 項目の調査・実験を予定しており、当該年度は、(1)について行った。 調査地において、月に一度子実体調査と採水を行った。子実体調査は発生した子実体を巨視的形態に基づきタイプ分けし、各タイプの情報(分類群名、発生場所、本数)を記録した。各タイプについてバーコーディング領域(ITS1)の塩基配列情報を取得した。採水は、河川3か所から各1リットルずつ行った。この水を対象にDNAメタバーコーディングを行うことで、菌類相を評価した。菌類相情報として操作的分類群(OTU、ITS1領域の塩基配列情報をもとに作成)の検出/非検出を記録した。 現在まで2016年12月から、2017年9月までの結果がまとまっている。子実体調査では、130タイプが検出された。一方、水中からは合計で4095 OTUが検出された。1092 OTU(全OTUの27%)について機能群の推定を行うことができ、植物体や土壌中で生活する腐生菌が最も多く(615 OTU)、次いで植物の寄生菌(171 OTU)や共生菌(99 OTU)が多様であった。このうち水生の菌類として知られるのは、腐生菌と寄生菌に属する89 OTUであった。水中の菌類相は時間とともに連続的に変化していた。水中から検出されたDNAと林内で発生した子実体のDNAには検出・発生時期が一致するものも見られたことから、水中の菌類相の時間変化は、部分的には陸域の子実体の発生フェノロジーを反映している可能性が示された。 従来水中の菌類相に対するDNAメタバーコーディングの適用例は非常に限られていた。今年度に行った調査と実験条件の検討の結果、水中の菌類相とその時間動態についての知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
想定している2つの調査のうち、特に本課題の中心テーマである菌類メタバーコーディングにより河川水中から菌類の DNAを検出した結果と子実体発生調査結果について、順調に結果が得られている。本研究が行われるまで、水中の菌類DNAを対象としたメタバーコーディング研究例は非常に限られていたため、どのような実験条件が適しているのか、そしてどのような菌類が検出されるかもわかっていなかった。当該年度は水中の菌類DNAを検出するためのDNA抽出法やPCR等の実験条件について検討を行い、実際に時系列での菌類相データを取得することに成功した。その成果として、水中の菌類DNAとして、水中で生活する菌類に加えて、陸域で生活する菌類由来と考えられる種も検出されることが明らかとなった。一方で、当該年度は子実体相と水中の菌類相の詳細な比較については、十分に行うことができなかった。ただし、子実体相と水中の菌類相ともにデータは順調に取得しており、比較可能な状態ができている。 水中での胞子・菌糸由来の菌類 DNA の分解速度実験については、当該年度にスタートすることはできなかった。しかし、これは当初の予定通りであり、すでに実験に必要な機器・設備等の準備は進んでおり、問題なく開始することができる状況である。 以上のことから、現在までのところ課題申請時の予定通りに順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
想定している2つの調査のうち、本課題の中心テーマである河川水中の菌類DNA相と子実体発生比較については、これまで順調に進行しており、今後も同様の手順により継続する。さらに調査地において優先的な種については、リアルタイムPCRを用いて、水中でのDNA量の時間変動を定量的に評価することで、子実体発生量と量的な時間変動パターンの比較を行う予定である。 もう1つのテーマである水中での胞子・菌糸由来の菌類 DNA の分解速度実験については、すでに実験に必要な機器・設備等の準備は進んでおり、問題なく開始することができる状況である。1年目の野外調査の結果を基に、実験に供する菌類種を決定したのちに、速やかに始める予定である。 これらの調査・実験は10月には終了する予定であり、それぞれの結果を基に、河川水中の菌類相を調査することで、森林において子実体(きのこ)の発見を介さずに野外環境の菌類相及び、その季節変動が推定可能であるかの考察を行う。研究成果については、全体の調査終了を待たずに、まとまった結果が得られたテーマから順に論文等で公表を行っていく。
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Causes of Carryover |
当該年度の成果を出すにあたり、複数サンプルの解析をまとめて行うことで、消耗物品等のコストを抑えられるため、当該年度に解析予定であったサンプルの一部を次年度に持ち越してまとめて解析を行うことにした。そのため当該年度に使用予定であった消耗品費や実験補助の人件費を翌年に持ち越すことにした。また、研究成果公表のための論文掲載料を想定していたが、公表は次年度に行うこととしたため、使用しなかった。 次年度では当初の予定通りに、持ち越した分の解析を行うための消耗品と人件費、そして研究成果公表のための論文掲載料として使用する予定である。
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