2017 Fiscal Year Research-status Report
光の色に応じた生育様式の転換を支えるサイクリックジグアニル酸ネットワーク
Project/Area Number |
17K15244
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
榎本 元 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (20780670)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環境応答 / シグナル伝達 / シアノバクテリア / c-di-GMP / バイオフィルム |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内二次メッセンジャーc-di-GMPの合成および分解に関わる遺伝子の網羅的な破壊株を好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanusにおいて作製し、低温下で誘導される細胞凝集を表現型に評価した。細胞凝集は青色光によって誘導され、緑色光によって抑制される、細胞外セルロースに依存した応答である。緑色光照射条件下で細胞凝集を抑制するのに最も重要な遺伝子として新たにtlr1612を同定した。定量Real-time PCRを用いて発現プロファイルとその変動を測定したところ、1. 低温条件下で全てのc-di-GMP関連遺伝子の発現が上昇し、2. 低温下における光質依存的な細胞凝集の制御において、c-di-GMP関連遺伝子の発現は有意な変動が見られないことがわかった。 細胞凝集を誘導するのに最も重要なc-di-GMP合成酵素SesAと、c-di-GMP受容体である細胞外セルロース合成酵素Tll0007の詳細なkineticsを生化学的に解析した。SesAは低い濃度でproduct feedback inhibitionを受けており、直接Tll0007へc-di-GMPを供給する因子ではないことが示唆された。これらの解析から、SesAから始まるc-di-GMPシグナル伝達経路において、最終的にTll0007が活性化されるまでに、Tlr1612の関わる、転写後制御によるc-di-GMPの増幅経路の存在が示唆できた。この結果はシアノバクテリアが多数もつc-di-GMPシグナル伝達遺伝子の個々の役割と相互の関連性の解明に貢献しただけでなく、さらなるc-di-GMPの受容体とその制御する役割の存在を示唆した。この成果をオープンアクセスの電子ジャーナルとして有名なScientific Reportsに報告することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度に予定していた、網羅的遺伝子破壊による細胞凝集への影響と、定量 Real-time PCR による発現プロファイルとその変動の測定、に関してはその解析を終え、その他の解析結果と合わせて投稿論文として報告することができた。細胞凝集という固着性の生活様式のみならず、走光性などの運動性、planktonicな生育様式への影響も調べる予定であった。これに関しては特定の遺伝子破壊株で既に運動性が抑制される表現型が得られている。 その他H29年度に予定していた、c-di-GMP 受容体の新規探索と結合様式の評価には現在着手できていないが、H30年度に予定していた細胞内局在解析において、GFP導入株の作製や顕微鏡のセットアップに早くも取り組むことができている。 これらを総合的に判断し、おおむね順調との結論に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度に投稿論文としてまとめることができた研究から、c-di-GMPシグナル伝達経路における転写後制御の重要性を示すことができた。これは当初よりH30年度に予定していたタンパク質間相互作用および細胞内局在解析の重要性を高めるものであった。そのためH30年度はこれらに注力し、もともとH29年度に予定していたc-di-GMP受容体の新規探索の優先順位は下げる予定である。しかしながらc-di-GMPの新規受容体の存在が示唆されたこともあり、機を見て受容体の新規探索にも試みる予定である。
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Causes of Carryover |
もともとH30年度はH29年度よりも少ない予算で使用する予定であった。しかしながら当初予定していた研究内容から派生した研究を短報としてH30年度に投稿する計画がH29年度中に浮上した。 そこで論文投稿料を見据え、少額ではあるがH30年度に予算を残して使用した。
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