2018 Fiscal Year Research-status Report
細胞内Mg2+濃度とリボソームの相関関係解明と応用
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17K15253
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
赤沼 元気 立教大学, 理学部, 助教 (30580063)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ribosome / magnesium / Bacillus subtilis |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに枯草菌のMg2+取り込みと排出を人為的にコントロールし、Mg2+の過剰、または枯渇を誘導する実験系を確立した。今年度はこの実験系をリボソーム量の少ない変異株(rrnAO+)でも実施し、Mg2+濃度変動の影響と細胞内リボソーム量との関係性を検証した。 <Mg2+過剰条件>通常量のリボソームを含む、野生株のバックグラウンド(wtBG)でMg2+過剰を誘導した場合、増殖速度と細胞内翻訳活性の低下が観察される。リボソーム量の少ない変異株でMg2+過剰を誘導すると、これらの影響はより顕著に観察され、wtBGでは見られなかった転写活性の低下が認められた。恐らく、rrnAO+株のバックグラウンド(rrnAO+BG)では遊離Mg2+濃度が向上しやすいため、様々な影響が顕在化しやすいと考えられる。また、in vitroの翻訳系においてもMg2+濃度向上に伴う翻訳活性の低下を観察し、Mg2+過剰による細胞内翻訳活性低下が、Mg2+の直接的な影響であることを示した。 <Mg2+枯渇条件>Mg2+枯渇を誘導すると細胞増殖が停止するが、細胞内のMg2+濃度低下は細胞分裂に依存するため、誘導してから停止するまで細胞はしばらく増殖を続ける。Mg2+枯渇誘導後、wtBGでは2.3倍程度まで増殖したが、rrnAO+BGでは1.5倍程度の増殖に留まった。リボソーム量の少ない細胞ではMg2+のストックが少ないため、早い段階で増殖不可能なレベルまでMg2+濃度が低下すると考えられる。また、Mg2+枯渇を誘導すると70Sリボソーム量が減少することが分った。リボソームが分解されると、リボソームにキレートされていたMg2+が遊離するため、細胞内の遊離Mg2+濃度は一時的に保持されると予想できる。従ってリボソームは、Mg2+の貯蔵庫としても機能する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
具体的な検討課題として以下の5点を挙げているが、すでに検証を終えている課題もあり、概ね計画通りと言える。1.生育段階におけるリボソーム量変動とMg2+濃度の相関性;非胞子形成培地と胞子形成培地でそれぞれ培養した枯草菌の細胞内Mg2+濃度を観察し、定常期に細胞内Mg2+濃度とリボソーム量が低下することを見出した。2.細胞内Mg2+濃度操作によるリボソーム量、新規合成量、翻訳活性への影響検証;Mg2+過剰条件下では翻訳活性が低下すること、新規合成量は通常の条件と比較して増加することが示唆された。また、リボソーム量の少ない細胞ではMg2+過剰の影響を受けやすいことが分った。さらに、in vitroの翻訳系でもMg2+は高い濃度で阻害的に作用することを示した。3.リボソーム変異株における70S形成量やリボソームの安定性に対する細胞内Mg2+濃度増加の効果;各リボソーム欠損株の細胞内Mg2+濃度向上が、70Sリボソーム形成量を回復させることを証明し、その成果をJ. Bacteriologyに発表した。4.細胞内Mg2+枯渇時のリボソーム分解と遊離Mg2+濃度変化の観察; Mg2+の枯渇によって70Sリボソームが分解されることを発見し、遊離Mg2+濃度変化をモニターするための株を構築した。5.細胞内Mg2+濃度操作による枯草菌の有用物質生産量増加;物質生産量への効果は検証していないが、細胞内Mg2+濃度を操作する系の確立に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
<Mg2+過剰条件> Mg2+過剰条件では遊離Mg2+濃度の正確な測定は困難であると予想される。そこでタンパク質当たりのMg2+濃度を測定することで、タンパク質の構造や活性に影響が出るMg2+濃度比を理解する。また、リボソーム量の少ない株ではその濃度比が高まり易いのかを検証する。さらにリボソームフラクションに含まれるMg2+量を測定し、細胞内Mg2+濃度との相関性が見られるかを検証する。その一方で、Mg2+とATPの濃度比についても明らかにする。リボソーム量の少ない変異株ではATP濃度が低下することからも、リボソーム量とATP濃度の双方がMg2+濃度変化への適応に重要であることを示す。さらに、定常期の細胞内Mg2+濃度を維持した条件でプロテアーゼやアミラーゼ、バシトラシンの生産量が向上するかを検証する。 <Mg2+枯渇条件> Mg2+リボスイッチを持つmgtE上流域にlacZを融合した遺伝子を持つ枯草菌で遊離Mg2+濃度の変動をモニターする。また、Mg2+枯渇時に見られる70Sリボソーム量の減少がリボソームの積極的な分解によるものなのかを検証する。そこでまずはrRNA量とリボソームタンパク質量の変動を観察する。また、リボソーム量の少ない株ではリボソームの分解が早期に起こるのかを確認する。一方、枯渇条件では長時間培養すると細胞の再増殖が見られる。このとき、一部の細胞では変異導入が認められるが、変異を含まない細胞でも増殖が認められる。そこでこの特殊な適応機構についても調査する。
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Causes of Carryover |
2018年度にディープフリーザーの購入を予定していたが、学科で所有するフリーザーに使用可能なスペースが確保できた。そこで2018年度の購入を見送ったため、次年度使用額が生じた。2019年度は引き続きディープフリーザー購入の必要性を見極めつつ、微生物の増殖を自動でモニターする機器の購入を検討する。
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