2019 Fiscal Year Research-status Report
アーキアにおける染色体高次構造変化を介した環境応答
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17K15254
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Research Institution | Osaka Dental University |
Principal Investigator |
円山 由郷 大阪歯科大学, 歯学部, 助教 (90610296)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アーキア / 染色体タンパク質 / 遺伝子水平伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
アーキアは種によって多様な染色体結合タンパク質を有し、中には真核生物のヒストンに相同なタンパク質を有する種もある。近年、アーキアは、極限環境にのみ存在するのではなく、通常環境や人体においても他の生物と共存していることが示唆されており、アーキアが周囲の環境とどのように影響しあっているかを理解する必要が高まっている。本研究では、アーキアの多様な染色体タンパク質の作用による染色体構造の変化などを通じて環境に応答する仕組みの解明を目指している。 これまでに、アーキアの複数の種について、新たな染色体タンパク質の探索および機能解析を行うことで、DNA結合たんぱく質Albaが染色体上で直径約10nmのファイバー形成に寄与していること、バクテリアのHUと相同なThermoplasma acidophilumの染色体タンパク質HTaが直径約6nmのビーズ構造を形成していることを示した。またより高次な構造として、直径約30-40ナノメートルの粒子構造が染色体上に存在し、アーキアの染色体にはEuryarchaeotaとCrenarchaeotaという2つの主要な門に共通して、段階的な高次構造が存在することを明らかにした。また、増殖の進行に応じて30-40nm構造の割合が増加することから、染色体構造が周囲の環境に応じて変化を起こすことが示唆された。 また、超好熱性アーキアThermococcus kodakarensisの染色体タンパク質として同定していたTrmBL2が、他のアーキアやバクテリアから水平伝搬した遺伝子の発現制御にかかわるなど未知の機能を有する可能性を示した。研究期間内に、将来の研究にも資することができる、アーキアの遺伝子発現変化を測定する方法を確立する予定である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)4種のアーキアについて、DNA消化酵素であるMNase消化による染色体構造解析、および原子間力顕微鏡(AFM)による再構成染色体構造の構造解析を行った。その結果、histoneをもつT. kodakarensisおよびHTaをもつT. acidophilumといったEuryarchaeota門のアーキアは、DNAがタンパク質に巻きついた染色体基本構造をもち、真核生物のhistoneによるbeads-on-a-stringに類似した構造を有する事が分かった。一方、Crenarchaeota門に属するSulfolobus solfataricusやPyrobaculum calidifontisにはDNAがタンパク質に巻きついた染色体基本構造を持たない事が明らかとなった。 (2) Thermoplasma属のアーキアが有するHTaは、細菌のHUタンパク質がeuryarchaeota門のアーキアに水平伝播したものであると考えられる。HTaが、DNAを巻きつけるというhisotneに類似した機能を獲得した後に、Thermoplasma属アーキアからhistone遺伝子が失われた事を示唆する結果を得た。 (3) 上記の結果から、アーキアの中で染色体基本構造としてDNAをタンパク質に巻きつける方法をとるEuryarchaeota門を中心とするグループと、DNAを巻きつけないCrenarchaeota門を中心とするグループに分けられる事を示した。このことは、現在の真核生物の染色体構造の起源を考察する上で重要な成果である。2020年に論文公表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
主に以下の項目について推進する。 (1) 超好熱性アーキアT. kodakarensisの熱ショック時における遺伝子発現応答と、その応答におけるTrmBL2の影響を検証する。 (2) DNA結合タンパク質Albaについて、従来知られていなかった翻訳後修飾を受けている可能性を示唆する結果を得ている。この翻訳語修飾をより詳細に解析する。具体的には、T. acidophilumの全細胞、または精製した染色体に含まれるタンパク質を質量分析によって解析し、Albaの翻訳後修飾の状況を解析する。 (3) T. kodakarensis等が持つ染色体タンパク質TrmBL2が、これまでに明らかになっている機能とは別に、遺伝子水平伝播によって獲得されたDNA領域の転写抑制に関わるという仮説をたてている。この仮説を検証するため、T. kodakarensisおよび近縁種のゲノム情報を用いて水平伝播によって獲得したDNA領域を特定する。次に、TrmBL2結合領域との比較を行う。また、実験系として、T. kodakanrensis染色体に外来遺伝子を挿入した際に、TrmBL2による抑制が起こるかどうかを検証する。
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Causes of Carryover |
理由:アーキアの段階的な染色体構造の解析成果を論文にまとめることを優先したため、RNA-seq・質量分析等の実験が未実施となり、予算より少ない使用額となった。また、学会参加予定を変更したため、旅費の使用額が少なかった。 使用計画:(1)超好熱性アーキアT. kodakarensisの熱ショック時における遺伝子発現応答と、その応答におけるTrmBL2の影響を検証するためのRNA-seqに関わる試薬・解析に使用する予定である。(2)Albaの翻訳後修飾を解析するためのタンパク質質量分析費用として使用する。(3)T. kodakarensisのrDNAに結合するタンパク質の同定を行う実験に使用する。(4)T. kodakarensisの水平伝播遺伝子を同定するためのバイオインフォマティックス解析費用として使用する。
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Research Products
(4 results)