2017 Fiscal Year Research-status Report
キノコ由来休眠型生合成遺伝子の発現に基づく物質生産と生合成解明
Project/Area Number |
17K15265
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
恒松 雄太 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (30629697)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 担子菌 / 二次代謝 / 天然物 / 生合成遺伝子 / 強制発現 / 遺伝子破壊 / ポリケチド / テルペン |
Outline of Annual Research Achievements |
担子菌ウシグソヒトヨタケCoprinopsis cinerea形質転換系の確立に成功し、326株を用いた場合には遺伝子強制発現を、ku3-24株(非相同末端修復酵素遺伝子ku70破壊株)を用いた場合に遺伝子破壊が可能であることを確認した。まず遺伝子発現については、機能既知生合成遺伝子であるCC1G_05377およびcop6 (CC1G_03563)の強制発現を行った。前者はポリケチド合成酵素、後者はテルペン環化酵素をコードする遺伝子である。その結果、それぞれの産物であるオルセリン酸、lagopodin類の生産性が10-250倍へと増加した形質転換体の取得に成功した。なおこの段階において、強制発現におけるプロモーター配列の検討を行った。約15のDNA配列を検討し、DED1などいくつかのプロモーターにて高い発現が認められた。ところで本研究年度中にて別グループよりC. cinereaを由来とする新規代謝産物hytoyol類の単離について報告された。本化合物群はlagopodin類から派生して生合成されると予測されている。実際にcop6強制発現株においてhytoyol類の生産性が野生株と比較して20倍程度増加することを確認した。 一方、遺伝子破壊については研究開始当初は成功する場合、失敗する場合がともに見受けられた。望みの遺伝子を高確率にて破壊できるよう、本項目の改善について種々検討した。最終的に、形質転換受容株のゲノムDNA配列を用いて遺伝子破壊カセットを作成することが重要であることを突き止めた。そこで先のcop6について遺伝子破壊を行った。その結果、lagopodin類およびhytoyol類の生産性の消失が確認され、cop6がその生合成遺伝子であることが証明された。このように担子菌由来テルペン化合物の生合成遺伝子が遺伝子破壊法にて機能解明された前例は無く、重要な成果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
京都大学農学部中沢威人博士に提供頂いた担子菌ウシグソヒトヨタケCoprinopsis cinerea 326株ならびに同ku3-24株を用いて、形質転換系の確立とともに、遺伝子導入による過剰発現、遺伝子ターゲティングによる遺伝子破壊が行えるように環境を整備した。まず遺伝子導入に関して、強制発現プロモーターを検討した。ポリケチド合成酵素をコードする既知遺伝子であるCC1G_05377を被験遺伝子(レポーター遺伝子)として、その産物のオルセリン酸をLC-MSを用いて定量評価した。約15のプロモーター配列を検討し、DED1プロモーターをはじめ、複数の強発現プロモーターを見出した。続いて別の遺伝子cop6 (CC1G_03563)についても同様に解析を行った。テルペン環化酵素であるCop6はlagopodin類の生合成に関与する遺伝子として報告されており、2017年には新規物質hytoyolo類が発見され、これはlagopodin類より派生して生合成される物質であると考えられた。そこでcop6遺伝子を強制発現させたところ、lagopodin類およびhytoyol類の生産量がそれぞれ5-20倍程度に増加したことが確認された。以上の検討により、ヒトヨタケ内在性遺伝子の強制発現に成功するとともに、天然物生産量を増大させることに成功した。 一方で、遺伝子破壊に関しても本年度内にてその方法を確立することができた。研究開始当初は遺伝子破壊が成功する場合、失敗する場合がともに見受けられた。望みの遺伝子を必ず破壊できる状況ではなかったため、本項目の改善を種々検討した。最終的に、形質転換受容株のゲノムDNA配列を用いて遺伝子破壊カセットを作成することが非常に重要であることを突き止めることができた。 当初の計画のうち、最低限実現ができると見込んでいた部分については十分に実行できることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の根幹をなす基礎的な部分の検討については、平成29年度にて計画通り完了することができた。その点を踏まえ、平成30年度においてはより学術的に新規性の高い、挑戦的な課題を推進する。具体的には、(1)ヒトヨタケ内在性の機能未知遺伝子の発現による新規天然物の生産、(2)別種キノコ由来遺伝子の異種宿主発現による物質生産系の確立、の順に研究を実施する。項目(1)を実施するための準備として、以下の検討を行う。一つ目に、ヒトヨタケのRNA-seq解析を通じて全遺伝子の転写量、ORF配列の同定を行う。既に次世代シーケンス測定を終えており現在情報解析中であるが、公共データベースにおいても数多くのRNA-seqデータがデポジットされていることが確認されており、複合的に情報を収集する。第二に、二次代謝生合成遺伝子解析プログラムAntiSMASHを用いて、ゲノム中より機能未知・推定天然物生合成遺伝子を探索する。第三に、文献情報より取得した二次代謝関連制御因子(例えば二次代謝グローバル制御因子LaeA、ヒストン脱アセチル化酵素遺伝子等)を探索する。これらの情報を統合し、標的として設定した各種機能未知遺伝子の強制発現、あるいは遺伝子破壊を行うことで新規天然物の産生の可能性を調査する。 項目(2)の実施に関しては、第一にヒトヨタケ近縁種すなわちCoprinus属担子菌のゲノム情報を獲得する。既に約10種の対象担子菌を入手済みであり、うち1種について次世代シーケンサーMiseqによる測定を実施した。今後はMinionによるロングリードの取得を行い、Miseqの結果と混合して情報解析することにより、そのゲノム情報を獲得する。得られたゲノム情報から機能未知生合成遺伝子を探索し、強制発現可能なかたちでC. cinereaに導入することで最大の目標である異種発現、物質生産系の確立を目指す。
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Research Products
(6 results)