2018 Fiscal Year Research-status Report
Ectomycorrhizal fungi at northernmost treelines in northeastern Siberia: inoculum potentials contributing to the northern expansion of tree distributions
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17K15281
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮本 裕美子 北海道大学, 北極域研究センター, 博士研究員 (50770632)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 気候変動 / 菌根共生 / 北東シベリア / 埋土胞子 / タイガ林 / ツンドラ |
Outline of Annual Research Achievements |
高緯度地域は地球上でも特に気温上昇が著しい地域である。シベリアには広大なタイガ-ツンドラ(疎林~灌木帯)が広がっているが、気温の上昇に伴い、寒冷林が北上することが予想されている。樹木はその成長に必要な養分の大部分を根で共生する「外生菌根菌」から吸収しており、ツンドラ帯に樹木が侵入するためには菌根菌との共生が不可欠である。本研究では、温暖化に伴う森林の北上プロセスの解明を念頭に、シベリアのタイガ林およびタイガ-ツンドラ境界において樹木に共生する菌根菌群集、および実生の定着に寄与する菌根菌の感染源を明らかにすることを目的とする。
まず北東シベリアの優占樹種であるダフリアカラマツ(Larix gmelinii)について、成木に生息している外生菌根群集(多様性・種組成)を明らかにした。タイガおよびツンドラ-タイガ境界において現地調査を実施し、分子解析により菌種と宿主を特定した。その結果、カラマツにはショウロ(Rhizopogon)の一種が優占している傾向が明らかとなった。ショウロはこれまでの研究からマツ属およびトガサワラ属にのみ共生するとされてきたが、本研究によって初めて野外でカラマツ属にも共生することが明らかとなった。本種はカラマツに特異的なカラマツショウロとして国際誌に発表し、新種記載した。
また菌根菌の感染源としての埋土胞子を特定するため、野外で採取した土壌中の胞子をバイオアッセイ実験により実生に感染させて菌根を形成させた。そして形成された菌根から菌種をDNA解析によって特定した。カラマツに感染した菌種を明らかにしたところ、これまで得られた一部の結果からではあるものの、カラマツショウロは休眠胞子としての優占度がそれほど高くない可能性が示された。一方でカラマツに特異的なヌメリイグチ属(Suillus)が休眠胞子として存在し、カラマツ実生に菌根菌を形成する傾向が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度に採取したカラマツ成木の菌根菌群集について、分子解析により菌種を特定した。またカラマツ以外の根も多数含まれていたことから、菌種が確認された根端についてtrnL領域をPCR増幅し宿主を特定した。菌根菌種の適合性を明らかにするため、カラマツとそれ以外の樹種について多変量解析を用いて菌群集を比較したところ、タイガ林では同じマツ科のカラマツとヨーロッパアカマツでは菌群集に有意な違いは見られなかった。しかしタイガーツンドラ境界ではカラマツと落葉樹で菌の組成が異なる傾向が明らかとなった。またタイガ林に比べ、タイガーツンドラ境界ではカラマツに宿主特異性の強いカラマツショウロがより大きな割合で出現していた。こうした結果から、カラマツがツンドラへ分布域を拡大する際には、カラマツに特異的な菌種や嗜好性の高い菌種の存在が重要である可能性が示唆された。
また休眠胞子組成を調べるため、風乾した土壌にカラマツの種子を播種し、半年間育苗した。各苗について菌根を形態分類し菌根の形成率を記録した。菌根を採取し、成木の菌種特定と同様のDNA解析手法によって、菌種の特定を進めた。その結果、Cenococcum、Helotialsといった子嚢菌が多数確認された。またカラマツの成木に優占していたカラマツショウロはほとんど感染していなかった。一方でショウロと近縁のカラマツに特異的なヌメリイグチ属が複数種確認された。そのうち2種はツンドラの土壌からも採取されており、ヌメリイグチ属の胞子はカラマツ不在のツンドラ帯にも分布していることが明らかとなった。
本成果の一部を取りまとめ、カラマツショウロの新種記載について国際誌に発表した。また成木の菌根菌群集について日本生態学会および日本森林学会において発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度に引き続き、埋土胞子実験を実施する。すでに根端を採取したものについて分子解析を進め、菌種を特定する。またどの菌種が樹木実生の成長促進に寄与しているのかを明らかにするため、バイオアッセイ苗の乾燥重量、炭素・窒素の含量を測定する。測定は地上部と地下部で分けてそれぞれ行う。また胞子休眠可能期間の解明のため、採取から18ヵ月風乾した土壌について同様のバイオアッセイ試験を進めている。現在育苗中のカラマツについても同様に顕微鏡による形態分類および菌種の特定を行い、菌根感染率を記録する。また乾燥重量、炭素・窒素含量などを測定する。
カラマツの成木の根にすでに形成された菌群集(種多様性、種組成など)について統計解析を進め、調査地間で比較する。また土壌の炭素・窒素含有量を計測し、その他の環境データ(気温、降水量、樹木の胸高直径)と菌群集の関連を多変量解析によって明らかにし、調査地間の違いの要因を特定する。さらに成木と埋土胞子バンクで確認された菌種を比較することで、胞子バンク特有の菌種を明らかにする。胞子バンクで確認された菌種については感染率を比較し、実生の成長量との関連を明らかにする。実生の成長に寄与している可能性のある菌種を特定する。
森林北限における菌根菌感染源と樹木成長促進機能について結果を取りまとめ、カラマツ分布域の北上についてその潜在性の評価や温暖化の影響について考察する。成果をとりまとめ、学術誌や国際学会などで発表する。
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Causes of Carryover |
薬品の使用量を節約したプロトコルで実験し、さらに薬品類をキャンペーン中に低価格で購入できたため、次年度繰り越しが生じた。繰り越し額は使用機器の補修・改善に使用し、また実験に係る薬品類の購入に当てる。
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