2018 Fiscal Year Research-status Report
環境考古学を応用した永久凍土の炭素動態復元と温暖化影響の検証
Project/Area Number |
17K15292
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
藤井 一至 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60594265)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 凍土 / 土壌有機物 / 気候変動 / 年輪 |
Outline of Annual Research Achievements |
凍土地帯における気候変動(温暖化)の土壌炭素蓄積量に対する影響を解明するため、カナダ北西準州のクロトウヒ林を事例に凍土地帯に形成される凹凸地形面(凍土マウンド)の発達過程を復元し、温暖化の影響を解析した。まず、マウンド周縁部に生育するクロトウヒの地表面から0-30cmのあて材形成は凍土マウンドのサイズと比例することを発見し、その関係を用いて土壌炭素蓄積量の高い凍土マウンドの発達過程を復元する技術を確立することに成功した。また、年輪内部の細胞形態観察から、あて材形成は夏の凍土融解ではなく前年度の夏季融解水の冬季再凍結過程で生じる上向きの圧力によることを発見した。これは、クロトウヒが直立できずに傾いて生える「酔っ払いの森」の形成が、必ずしも温暖化影響ではないことを示している。年輪がマウンド発達の指標となることを確認した上で、凍土マウンド上に生育するクロトウヒ50本を対象に年輪の歪みを測定し、その履歴を用いて凍土マウンド発達過程を復元したところ、温暖化の進行した1960年以降に凍土マウンドの発達が活発化していることを解明した。一方で、凍土マウンドの発達は浅い凍土面、粘土質土壌を前提条件としていたことから、連続永久凍土帯における酔っ払いの森の発達は、一時的な温暖化に対しては活発化するが、凍土面低下(永久凍土層の劣化)を伴う温暖化ステージでは凍土マウンドの崩壊と堆積有機物層の減少を引き起こすことを解明した。研究成果の一部はペドロジスト誌の学術論文、日本生態学会において発表した。研究成果を含めて一般向けの新書『土 地球最後のナゾ』(光文社)を出版し、『土壌微生物学』(朝倉書店)pp144-155を分担執筆し、成果普及に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
凍土マウンドの発達を形態的に復元するための物理的なデータの取得に成功した。また、凍土マウンドの発達による土壌炭素蓄積量の増加速度を実測し、ペドロジスト誌の学術論文、日本生態学会において発表した。研究成果を含めて一般向けの新書『土 地球最後のナゾ』(光文社)を出版し、『土壌微生物学』(朝倉書店)pp144-155を分担執筆し、成果普及に努めた。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに取得したマウンド発達に伴う炭素蓄積速度、リター分解実験の実測値を用いて炭素蓄積量の変動を年輪のデータが利用できる過去200年にわたって復元する。さらに、凍土マウンドの炭素蓄積量の変動を異なる気候変動シナリオで推定し、凍土マウンドの炭素貯留機能に対する温暖化影響を定量的に検証する。
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Causes of Carryover |
国際学会参加、データ取得のための出張経費を格安航空券を利用することで節約したことで次年度使用額が発生した。次年度の炭素年代測定(土壌試料)およびモデルランニングのための環境整備に充てることを予定している。
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