2017 Fiscal Year Research-status Report
散乱特性とスペクトロミクスによる食品の熟成モニタリング手法の開発
Project/Area Number |
17K15354
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
粉川 美踏 筑波大学, 生命環境系, 助教 (10732539)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 散乱特性 / 微細構造 / 食品の熟成プロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に添い、本年度は以下の2テーマに沿って研究を進めた。 電気インピーダンスおよび蛍光指紋による肉の熟成プロセスモニタリング:電気インピーダンス法および蛍光指紋法の2つの技術を用い、牛肉の熟成プロセスをモニタリングした。電気インピーダンス法は、試料に交流電流を流し、試料がもつ抵抗値(インピーダンス)を測定する手法であり、蛍光指紋法は試料の自家蛍光を網羅的に測定する方法である。電気インピーダンスは試料の化学成分だけでなく物理構造(細胞の状態等)にも大きく影響を受けるため、散乱分光計測に類似した情報を得られる。そのため、装置の構造が比較的単純な本手法を用い、本研究の最終目的である、散乱分光測定とスペクトロミクスによる食品熟成プロセスのモニタリングを行う際の課題を探った。熟成指標としては、牛肉の硬さ(ワーナーブラッツラー法で測定)、熟成日数、および水分保持能を用い、電気インピーダンス法の各パラメータおよび蛍光指紋データからこれらの指標を推定した。 蛍光指紋によるアボカドの追熟プロセスモニタリング:収穫後に追熟プロセスを経て食されるアボカドを対象に、追熟過程での成分変化を蛍光指紋法により計測した。追熟の指標としてはテクスチャーアナライザーで測定した果肉の硬さを用い、果肉と外果皮の蛍光指紋データから果肉硬さおよび追熟度合い(「未熟」「適熟」「過熟」)を推定した。果肉と外果皮の計測には、同軸落射システムを用い、試料を切断することなく計測を可能とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画のうち、熟成指標の計測、および下記の2テーマに沿って食品の熟成プロセスのモニタリングを行なった。 肉の熟成プロセスモニタリング:牛肉の熟成工程を電気インピーダンス法および蛍光指紋法を用いてモニタリングした。電気インピーダンス法では、肉の繊維方向に対して平行および垂直に電気を流したときのインピーダンス値の比を求めたところ、肉の熟成に伴って比が小さくなることがわかった。熟成に伴って筋繊維の構造が変化することによる、主に物理構造の変化が電気インピーダンス値を変化させていることが推察され、肉の熟成度合いを調べるための有用な技術であることがわかった。本テーマの成果は投稿論文1報としてまとめた。一方、蛍光指紋法を用いたモニタリングでは、局所的な組成の違い(脂肪と赤身の割合)が蛍光指紋に大きな影響を与えてしまい、相対的に小さい熟成に伴う変化を捉えるのが困難であった。測定面積を大きくとり、平均化する等の処理が必要であると考えられる。 アボカドの追熟プロセスモニタリング:アボカドの追熟度合いは外果皮および果肉の蛍光指紋から高い精度で推定可能であった。追熟が進むにつれ、外果皮および果肉のクロロフィル量が減少し、また、過熟段階になって果肉が黒っぽく変色すると、エピカテキン等のポリフェノールの蛍光ピークが極端に弱くなることがわかった。アボカドの追熟度合いを「未熟」「適熟」「過熟」に分け、外果皮の蛍光指紋からこの分類を推定したところ、95%以上の精度で推定が可能であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は研究計画のうちのステップ2に当たる食品の熟成プロセスモニタリングを主に実施したため、今後はステップ1に当たる散乱分光システムの構築およびモデル試料の計測を行う。システム構築は、(国研)農研機構の蔦研究員、および筑波大学システム情報系の水谷教授と共同で行う予定である。モデル試料は吸光物質(染料)と散乱物質を複数水準の濃度で混合することにより作製する。吸光度および散乱係数が既知の試料を散乱分光システムで計測することにより、今後未知の試料を計測する際のパラメータ選択を行う。 また、アボカドの追熟度モニタリングに関しては、蛍光指紋以外に紫外・可視・近赤外の吸収スペクトルを測定することで、追熟度合いの推定精度を向上させる。アボカドは追熟を行うとアントシアニン等の強い可視光吸収を示す物質が増えることが知られており、これらの成分が可視光吸収スペクトルで計測できると期待される。さらに、イメージングシステムを用いての測定を行うことで、生産・選別現場への普及を目指す。
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