2019 Fiscal Year Research-status Report
散乱特性とスペクトロミクスによる食品の熟成モニタリング手法の開発
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17K15354
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
粉川 美踏 筑波大学, 生命環境系, 助教 (10732539)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 散乱特性 / 微細構造 / 食品の熟成プロセス / 吸光特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、計測対象の光散乱特性と吸光・発光特性を網羅的に計測する手法を開発し、食品の熟成に伴う物理的構造や化学成分の変化を調べることを目的としている。本年度は研究実施計画にしたがい、ステップ1に当たるレーザー散乱計測システムの構築およびモデル試料の計測を行った。レーザー散乱計測システムでは、複数の単色レーザーを試料に照射し、散乱による光の広がりをカメラによって計測した。この光の広がりを、照射点からの距離と平均輝度値の関係(輝度プロファイル)に変換し、試料の特性と関連づけた。モデル試料としては、標準懸濁液と色素をそれぞれ複数濃度に調製し、混合したものを使用した。標準懸濁液は光散乱特性を、色素は吸光特性を制御するために用いた。標準懸濁液および色素濃度を変えることで、輝度プロファイルは有意に変化することがわかった。さらに、測定システムの改良(例えばレーザー光の集光や照射位置の統一)および解析方法の工夫(試料サイズによる規格化、ノイズの除去)を重ね、測定の再現性や精度を高めることに成功した。 さらに、ステップ2に当たる「蛍光指紋によるコーヒー豆熟度判別イメージング」および「蛍光指紋によるアボカドの追熟プロセスモニタリング」について研究を進めた。前者のテーマでは、収穫時のコーヒー果実の熟度に応じて種子にあたるコーヒー豆を選別するための基礎的知見を得ることができ、学会発表を2件行った。後者のテーマでは、アボカドの追熟度合いを果皮から推定する技術の開発を行い、学術論文1報を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
散乱分光システムの構築およびモデル試料の計測: 緑(530 nm)および赤(635 nm)の単色レーザーおよび、CMOSカメラ(Orca-spark、浜松ホトニクス)からなる散乱分光システムを構築した。単色レーザーの光を試料に照射し、散乱により光が拡散した様子をカメラで撮像することで、試料の微細構造を推定する測定システムである。モデル試料として、蒸留水に標準懸濁液と色素を16通りの濃度で混合した試料を調製し、これらの試料にレーザーを照射したときの輝度プロファイル(照射点からの距離と、輝度値の関係)を取得した。幅広いダイナミックレンジでのデータを取得するために、カメラの露光時間を1 msから1000 ms まで7段階に設定し、データを取得した。 蛍光指紋によるコーヒー豆熟度判別イメージング: 異なる成熟段階(未熟から完熟)で収穫したコーヒー果実から果肉等を取り除き、コーヒー飲料のもととなるコーヒー豆を用意した。このコーヒー豆の蛍光特性を計測することで、収穫時点でお成熟段階の推定を行った。コーヒー果実の成熟段階を揃えること、特に完熟の状態で収穫した個体を揃えることがコーヒー飲料の品質向上につながることが知られており、この研究は収穫後の選別方法として蛍光指紋を用いるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画のステップ2および3にしたがい、構築したレーザー散乱システムを用いて異なる熟成過程にあるチーズの計測を行う。チーズの輝度プロファイル(照射点からの距離と輝度の関係)を取得し、輝度プロファイルを特徴づけるパラメータを抽出することにより、熟成の進行による微細構造変化と関連づける。 チーズの熟成に伴う蛍光および吸光特性の変化についてはすでに取得済みであるため、これに散乱特性の変化を合わせ、散乱・吸光・蛍光特性からチーズの熟成過程において変化する成分や微細構造を解明する。合わせて、チーズのテクスチャーや遊離アミノ酸量など、従来から熟成度合いを示す指標として用いられてきた計測値を取得し、散乱・吸光・蛍光スペクトルからこれらの指標を推定する。テクスチャー分析や遊離アミノ酸量の計測は破壊的な計測となり、計測自体に時間がかかるため、迅速・非破壊的に計測が可能な光計測でこれらの計測を代替できるかどうかを調べる。
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Causes of Carryover |
本年度はレーザー散乱システムを用いたチーズの熟成モニタリングを行う予定であったが、実際はレーザー散乱システムの構築およびモデル試料の計測のみが可能であり、チーズのモニタリングまでは進まなかった。したがって、チーズの熟成モニタリングに用いる物品や消耗品に当てる研究費を次年度に使用することとした。次年度は、この研究費を用いて測定システムの改良、制御ソフトウェアのアップデート、および計測に関わる消耗品の購入を行う予定である。
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