2017 Fiscal Year Research-status Report
近赤外光を用いた、糖異性体のin vivo測定法の確立
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17K15356
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田中 冴 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60770336)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 糖 / 異性体 / 生体計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近赤外光を用い、生体内における糖の異性体比を測定することを目的としている。これを達成するために、まずはより単純な系である溶液において、糖の異性体の波形パターンを解析する必要がある。そこで、1-1. 単糖の構造と近赤外光の波形パターンとの相関関係を解析した。単糖類や多くの二糖類は溶液中で、α型とβ型の2つの構造異性体の平衡状態になる。例えば、グルコースでは、どちらの異性体を溶解させても、2時間ほどで平衡点(α型:β型=38:62)に達する。純粋溶液中の糖の異性体の比は、旋光度によって定量できるため、近赤外光と旋光度を同時に測定することにより、時間と共に変化する異性体比と近赤外スペクトルとの相関関係を解析した。結果、偏最小二乗回帰により、1,100-1,800 nmの波長領域において、1,742 nmの吸光度が最も旋光度の回帰に有効であることを見出した。また、ベースライン補正により、1,742 nmの吸光度が旋光度と非常に高い相関を示すことも明らかにした。この波長の吸光度は、生体中の異性体比の測定におけるよい候補と考えられる。次に、1-2. 生体様条件下でのグルコース水溶液のスペクトルの安定性を調べた。温度・pH・イオン強度などにより平衡到達時間や平衡溶液中の異性体比が変化することが知られている。そこで、まず、純粋溶液だけではなく、生体のような溶液条件においても、1-1で見出した1,742 nmの吸光度が有効であるかを検証した。その結果、この吸光度は、純水中だけでなく、PBS溶液中(pH 7.2, 299 mOsm/kg)や、37℃でも安定して旋光度との相関を示した。このことから、1,742 nmの吸光度は生体のような条件であっても有効であることがわかった[Tanaka et.al., Carbohydr. Res. (2018) in press]。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究では、溶解直後と平衡点における比較を行うに留まっていたが、旋光度計の導入により、旋光度と近赤外光スペクトルの同時測定が可能になった。これにより、溶液中の異性体比の変化に伴うスペクトルの変化を偏最小二乗法により捉えることができた。この結果、1,742 nmにおける吸光度が旋光度(異性体比)の回帰に最も寄与度が高いことが示された。また、この波長における吸光度は単独でも旋光度と非常に高い相関を示し、かつ、イオンの存在や温度変化にも安定であることがわかった。このことから、1,742 nmの吸光度は、生体中の異性体比を測定する上で、非常によい候補であると考えられる。以上の結果をまとめ、Carbohydrate Researchに投稿した[Tanaka et.al., Carbohydr. Res. (2018) in press]。 また、現在、近赤外光スペクトルにおけるピークを詳細に帰属するため、重水素を用いた測定に取り組んでいる。A) すべてのCH基の水素を重水素に置換したもの、B) 一位炭素に結合した水素を重水素に置換したもの、C) 環外の-CHCH2OH基の水素を重水素に置換したものを用いることで、1,742 nmの吸光が分子のどの部分に由来するかが明らかになることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、現在進めている重水素置換体の測定および解析を進める[研究計画2]と共に、生体中の異性体比の測定方法の確立を試みていく[研究計画3]。 初年度の研究により同定した1,742 nmの吸光は、一位炭素のC-Hに由来すると予想される。しかしながら、他のC-H由来である可能性も否定されないため、重水素置換体を用いて、詳細な帰属を試みる。これにより、異性体間における構造の違いに基づいてスペクトルを正しく捉えることができる。 生体中の異性体測定は次の2つの系を計画している。1. 異性体変換酵素を強制発現させた大腸菌および培養細胞、および、2. 実際に異性体比が異なることが報告されている植物、それぞれにおける生体中の異性体の検出である。前者では、細胞シートを用いて溶液同様に透過光で測定ができないかを現在検討中である。また、いくつかのヒト培養細胞においては異性体変換酵素が恒常的に発現していることが確認できたので、強制発現ではなくCRISPR-Cas9系を用いて欠損株を樹立する予定である。もしくは、片方の異性体のみを基質とするグルコースオキシダーゼの大量発現により、細胞内の異性体比を大きく変化させるような系を作成する。それらの生体内異性体比を酵素法などで測定するとともに、近赤外光スペクトルを測定し、近赤外光により生体中の異性体比が測定可能であるかを検証していきたい。
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Causes of Carryover |
旅費、および、その他の使用額が減じた理由として、論文投稿のことを考慮し、研究内容を発表する国内、および、国際学会の参加を次年度に見送ったこと、および、投稿論文の採択が年度を跨いだことの2点が挙げられる。また、今回生じた次年度使用額の計画として以下の3点を挙げる。1、次年度は、今年度得られた結果について、複数の国内、および、国際学会における発表を予定している。2、現在投稿中の論文に関して、広く結果を周知することを目的として、オープンアクセス化することを検討している。3、現在進行している重水素置換体を用いた解析において、さらに詳細な解析をおこなう必要が生じたため、他種の重水素置換体の追加購入を予定している。
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Research Products
(3 results)