2017 Fiscal Year Research-status Report
細菌由来分子に着目したルーメン上皮バリアの発達機序の解明
Project/Area Number |
17K15358
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 裕 北海道大学, 農学研究院, 助教 (10793846)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ウシ / ルーメン上皮組織 / 未分化細胞 / 細胞培養 / 上皮バリア機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では消化管内容物や共生細菌叢に対するルーメン上皮組織のバリア機構の発達機序の解明を目指した。 本年度ではルーメン上皮の組織幹細胞またはそれに類する未分化細胞を、幹細胞培養技術を用いて安定的に培養する技術開発を行った。初めに、既知のマーカー遺伝子の発現と発現細胞の局在を検討したところ、重層扁平上皮組織の幹細胞マーカーと考えられるTP63、AXIN2、ITGA6、ITGB4、SOX2、および増殖細胞のマーカーとなるMKI67のmRNA発現が確認され、SOX2およびKi67陽性細胞については上皮組織基底部位において多数の陽性細胞がみられ、それらの一部は共陽性細胞であることが判明した 次の実験では上記の未分化細胞群の単離および培養方法について検討した。ルーメン組織からトリプシン処理により単離した上皮細胞を、既報を基に調製した組織幹細胞培地においてフィーダー培養、またはECMコーティングによるフィーダーフリー培養法に供した。結果として、細胞播種24時間後、両条件においてウェル底面に付着した生細胞が確認され、120時間後では両条件ともにルーメン上皮細胞はコロニーを形成していた。免疫染色により培養細胞の性状を検討したところ、SOX2、Ki67、ITGA6を発現していることが確認された。また、SOX2、Ki67については上皮細胞コロニー内の細胞間で発現量のばらつきがみられた。 したがって本年度の研究から、ルーメン上皮組織の基底部において未分化性を維持しつつ、増殖を繰り返して組織に細胞を供給する組織幹細胞的な機能を有する未分化細胞群が存在することが示唆された。さらにこの細胞群の未分化状態を維持した体外培養法の確立に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画では、ルーメン上皮の細胞培養モデルの改良と、それを利用した菌体由来成分によるバリア構築への効果の検討を予定していた。ルーメン組織における未分化細胞の存在の検討では、増殖活性を持つ未分化細胞群の存在を示唆する結果が得られ、その遺伝子発現解析から同細胞群の未分化性を維持するニッチ因子の一部が明らかにすることができた。続く上皮培養モデルの確立が本研究において最も重要な実験であり、当初の予定通りに組織幹細胞培養法を用いることで安定的に培養する手法の確立に成功した。実験過程では当初予定していなかったフィーダー培養も検討項目に入れたため、予定よりも多くの時間が必要となった。しかし結果として、細胞不死化の必要が無い培養系を確立できたことにより、今後の実験においての省力化や結果の蓋然性を向上する要因になると期待される。一方で、菌体由来成分によるバリア構築への効果の検討については、上皮細胞培養系の確立に時間を要したため、現在実験を進めている状況である。現在は細菌代謝産物である短鎖脂肪酸の添加実験を行っており、菌体成分についても実施予定であるが、培養細胞における実験であり多くの時間を要さないため研究は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
全体計画として概ね順調に進展しているため、当初の計画通りに研究を実施する。菌体由来成分によるバリア構築への効果の検討では、若干の遅れがあるものの実験基盤となる培養ルーメン上皮細胞を確立できているため、予定通り研究を進行する。また生体内環境を精度よく模倣するために分化培養法を利用したい考えており、上記の実験と同時展開したいと考えている。 今年度予定している動物レベルでの菌体由来成分によるバリア構築の促進効果の検討については、現在実験動物(ウシ)の確保および予備実験を行っている。計画通りに研究を実施する予定であるが、農場の使用状況では予定頭数のサンプリングに遅れを生じる可能性があるため、その場合は問題ない程度に頭数を減らして簡略化するなどの方策を取りたいと考えている。
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Causes of Carryover |
ルーメン上皮細胞の培養条件検討において、当初予定していた薬剤の添加が不必要であることが判明したため、物品費に差分が生じた。今後の研究において、細胞添加用のホルモンの購入等に充てる予定である。
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