2017 Fiscal Year Research-status Report
植物が記憶する情報を利用した熱ストレス耐性向上のための作物栽培法の確立
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17K15403
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
鈴木 伸洋 上智大学, 理工学部, 助教 (50735925)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 熱ストレス / 記憶 / 長距離シグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、シロイヌナズナが短期的または長期的に記憶・伝達する詳細な情報を分子生物及び植物生理学的アプローチで明らかにすることを目的とした。シロイヌナズナの本葉2枚に0、20、40及び60秒、並びに5、15、45及び60分の熱ストレスを与え、直接ストレスを受けていない部位の熱ストレス応答性遺伝子またはタンパク質の発現を調査したところ、5分の熱ストレスで発現上昇が始まり、45分で発現量のピークを示す遺伝子が多いことがわかった。一方、タンパク質発現は20秒の熱ストレスにより発現が上昇するものも見られ、遺伝子発現よりも反応が早いという予想外の結果が得られた。さらに、活性酸素も60秒の熱ストレスにより上昇する傾向が見られた。これらの結果から植物の熱ストレスにより活性化される長距離シグナルが秒単位で伝わることが明らかとなった。次に、本葉2枚に熱ストレスを与え、通常条件下で1、3、6、9、24 及び72 時間回復させた後に、直接ストレスを受けていない部位における遺伝子及びタンパク質発現量を調査した。その結果、分単位の熱ストレスを与えた直後に遺伝子発現の上昇がみられる場合、回復させた1時間後にさらに発現量が上昇する遺伝子及びタンパク質が多いことがわかった。また、回復時の遺伝子またはタンパク質発現量は72時間の間に上下を繰り返すこともわかった。尚、同様の傾向は直接熱ストレスを受けた部位でも見られた。これらの結果は、分単位の熱ストレスシグナルも長距離シグナルにより記憶・維持されることを示している。この他、熱センサーの一つと考えられているタンパク質を欠損した突然変異体の長距離シグナルの異常と、そのパターンの生育段階による違いも見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
短時間の熱ストレスにより活性化される記憶とそれを維持するパターンは概ね明らかになったものの、秒単位の熱ストレスにより発現が明確に上昇する遺伝子は明らかになっておらず、秒単位の熱ストレスを与えた後の記憶維持のパターンの解析には至っていない。一方で、熱センサーとして考えられているタンパク質を欠損したシロイヌナズナ突然変異体の長距離シグナルに異常があることがわかり、当初の予定にはなかったものの、この突然変異体の特性解析も開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
熱ストレス応答の初期段階における遺伝子及びタンパク質発現量のピーク、並びに回復時の記憶維持のパターンが概ねわかった。平成30年度は植物体の一部に熱ストレスを与えることにより、植物体全体の熱ストレス耐性を向上させるための最も効率の良い条件を、この遺伝子・タンパク質発現の記憶のパターンを基に見つけることを目的とする。 また、秒単位の熱ストレスにより発現量が上昇する遺伝子の探索も継続する。秒単位の熱ストレスに応答する遺伝子の候補として、熱ストレスのみならず、他のストレスに対し比較的早い段階で発現が上昇する遺伝子にも注目する。 さらに、長距離シグナル伝達に異常が見られた突然変異体についても、秒または分単位の熱ストレス応答及び記憶に関する詳細な解析を進める。
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