2019 Fiscal Year Research-status Report
植物が記憶する情報を利用した熱ストレス耐性向上のための作物栽培法の確立
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17K15403
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
鈴木 伸洋 上智大学, 理工学部, 准教授 (50735925)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 長距離シグナル / 獲得熱耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度までに,シロイヌナズナ植物体の一部に熱ストレスを与えた場合に直接ストレスを受けていない部位で発現量が上昇し,その後の回復時にもその高い発現量が維持される遺伝子をいくつか特定した.そこで,令和元年度はこれらの遺伝子を欠損した突然変異体を用いて,植物体の一部に熱ストレスを与えた場合に直接ストレスを受けていない部位で見られる遺伝子発現の変動を解析した.その結果,転写因子bZIPを欠損した変異体では,野生型に比べ遺伝子発現の変動が小さいことがわかった.Hspsなどのストレス応答性遺伝子の発現量は野生型では,熱ストレスを与えた直後に著しく上昇し,回復後1時間まではある程度維持されるものの,その後,減少した.一方,bZIP欠損変異体では熱ストレスを与えた直後のストレス応答性遺伝子の発現量の上昇幅は野生型よりも小さかったものの,その発現量は回復時に長時間維持されることがわかった.また,bZIPを欠損した変異体では,植物体の一部に熱ストレスを与え1~3時間回復させた場合の獲得熱耐性が野生型よりも強い傾向が見られた.この結果は,転写因子bZIPが熱ストレスにより活性化される長距離シグナルの制御に関与していることを示している.この他,カルシウムチャネルの一つであるCNGCを欠損した変異体では,獲得熱耐性が低下する傾向も見られた. また,植物体全体が直接,短時間の熱ストレスを受けた場合の回復時における遺伝子発現の変動パターンについてもより詳細な解析を行い,その結果を論文としてまとめ,現在審査中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
熱ストレスにより活性化される長距離シグナルの制御に関与する可能性のある遺伝子をピックアップし,それらを欠損した変異体の解析を行った.その結果,それらの変異体の長距離シグナル伝達並びに獲得熱耐性が野生型とは異なることを明らかにした.この結果は,熱ストレス応答性長距離シグナルを制御するカギとなる因子の一部を特定できたことを意味している. また,これまでの結果から,植物体が直接5分の熱ストレスを受けた場合に,ストレス応答性遺伝子の発現量が回復時に著しく上昇することを突き止めていたため,そのメカニズムを解明するための遺伝子発現の網羅解析も行った.ここまでの解析ができたことは予想以上の進展といえる.今後は,短時間の熱ストレスからの回復時に働くメカニズムの詳細な解析を進めていく.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から,植物体の一部に熱ストレスを与えた後に回復させることにより,植物体全体の熱ストレス耐性を効率的に向上させるための処理時間がわかったと考えている.令和2年度は,シロイヌナズナの解析から得られた結果をベースに,トマトやコマツナなどの他の作物についても,熱ストレス耐性を効率よく向上させるための手法の確立を目指す.また,本研究で確立される手法が熱ストレス耐性以外の他の形質に与える影響を最小限にする必要がある.そこで,令和2年度は植物体の一部に熱ストレスを与えた場合の生育への影響も詳細に解析を行う.
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